岡嶋二人 01


焦茶色のパステル


2000/09/02

 日本のミステリー界に多大な影響を及ぼした共作作家、岡嶋二人さんのデビュー作にして乱歩賞受賞作。まずは、乱歩賞の名に恥じない作品だと言っておこう。

 東北の牧場で、牧場長と競馬評論家の大友隆一が殺害され、さらにサラブレッドの母子、モンパレットとパステルも射殺されるという事件が起きる。パステルは、歴史に残る名馬ダイニリュウホウの仔であった。隆一との夫婦生活に限界を感じていた妻の香苗と、友人である競馬誌の記者芙美子は、事件の調査に乗り出すが…。

 本作のテーマは競馬である。競馬に興味のない方はピンと来ないかもしれないが、競馬はとにかく血統が重んじられる。血統こそすべてと言い切っても過言ではない。好成績を残した名馬ともなると、引退後は繁殖馬として引く手あまたである。そして名馬の血を受け継いだ仔馬たちは、高値で競り落とされていく。

 とはいえ、以上のような背景に通じていなくても心配は要らない。探偵役の香苗自身が競馬に関しては素人である。友人の芙美子に色々と教わりながら、この世界に対する理解を深めていく。と同時に、読者にも徐々に競馬の世界がわかるようになっているのである。説明口調に陥らずに読者へ理解を促すうまさは、デビュー作にしてさすがと言うしかない。

 一連の事件の裏に隠された、競馬界を揺るがすスキャンダルとは…。確かに衝撃的ではあるが、射殺されてしまったモンパレットとパステルにとっては迷惑な話だ。血統を重んじるのは人間の勝手である。取って付けた「名誉」など彼らの知ったことではない。そこに見え隠れするのは、人間のエゴ。馬への愛情が感じられない。

 そして隆一の妻への愛が感じられない。彼が事件に関わった真意を、香苗が知ることはない。事件を通じて、香苗は何かを得られたのだろうか?

 本作の後、『七年目の脅迫状』、『あした天気にしておくれ』と競馬をテーマにした作品が続く。読み比べてみるのも面白いだろう。



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