岡嶋二人 07


三度目ならばABC


2007/03/19
2008/03/17修正

 岡嶋二人の作品は、登場人物が前面に出ることがあまりない。昨今の傾向を考えれば潔いと言えるが、内容は面白いのに登場人物が印象に残らないことも多いように思う。そんな中、本作は主人公のコンビの魅力が光る、異例の作品集である。岡嶋二人自身が、楽しんで書いた、二人を気に入っていると著者のことばで述べている。

 身長183.2cmの織田貞夫(おださだお)、身長145cm未満の土佐美郷(とさみさと)という、上から読んでも下から読んでも同じ山本山(もうCM見ないな)コンビは、弱小プロダクションの社員。再現ドラマのネタとなる「事件」を取材するうちに、見えてくるものとは…。

 連続発砲事件で遂に犠牲者が、表題作「三度目ならばABC」。この説明は現在では成り立たないだろう。その理由は…。続く「電話だけが知っている」も、同じ理由で成り立ちにくいかも。むむう、書けないのがもどかしいが、現在との対比も楽しみの一つだと思う。

 一夫多妻ならぬ多夫一妻か、「三人の夫を持つ亜矢子」。自動車瞬間移動の謎を解け。運転しない貞夫単独では解けなかったろうなあ。人さらいの岡嶋なら誘拐ネタは欠かせない、「七人の容疑者」。この親にしてこの子ありか…。

 再現ドラマの撮影中に謎解き合戦に突入する「十番館の殺人」。完成した再現ドラマより、この推理の過程をドラマにした方が面白そう。詳しくは書けないが危機一髪、「プールの底に花一輪」。身に覚えはないか。たとえ冗談のつもりでも、からかわれた方は…。

 各編の内容はかなり端折ったが、謎解きとしてもよく練られている。しかし、やはり本作の魅力は山本山コンビに負うところが大きい。最終的に謎を解くのは貞夫の役目だが、美郷の脈絡のない思考回路が、意外と的を射ているのだ。そこに本作の面白さがある。

 貞夫と美郷のコンビは、長編『とってもカルディア』で再登場を果たしている。同じ人物が複数の岡嶋作品に登場した数少ない例である。よほどのお気に入りだったらしい。



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