岡嶋二人 11 | ||
とってもカルディア |
『三度目ならばABC』に続き、織田貞夫と土佐美郷の山本山コンビが長編で活躍する。現在では知らない人も多いだろうが、「カルディア」とは当時富士写真フイルムから発売された全自動カメラの商品名である。タイアップでもしていたのだろうか。
貞夫の大学時代の友人である秋本冬樹が、突然転がり込んで来た。しかも、カメラをタクシーに忘れたから、貞夫が美郷から預かっていた「カルディア」を貸せという。美郷とは違った意味でマイペースな秋山と、はっきり断れない貞夫に苦笑しつつ幕が開く。
二人に新たに持ち込まれた事件は、「死体なき殺人事件」であった。パーティーに出席した大学教授が、会場の屋敷で死体を見たのだという。ところが、死体は消えていた。屋敷の主人はそもそも殺人など起きていないと言う。警察も痕跡を発見できなかった。
美郷のカルディアを持ったまま姿を消した秋山と、死体消失事件(?)との接点は。今回も美郷の偉大な直感が冴える、とだけ書いておく。やはり最終的に謎を解くのは貞夫なのだが、前作と比較して美郷の活躍が光る。コンビの良さがより前面に出ている。
手頃な長さに、死体消失という本格の要素あり、事件を追って信州の小さな町に飛ぶトラベルミステリーの要素ありという豪華版。多少展開がご都合主義なのは、山本山コンビの魅力があれば気にならない。本作の読みどころは、美郷の名(?)推理が点と点を強引に線で結んでいくところにあるのだ。本作に関する限り、貞夫に主導権はない。
一つ挙げておきたいのは、カルディアの特徴や機能が事件を解く鍵になっていることである。なるほど、真犯人ならずとも、こんなマニアックなことまで普通は知らないよなあ。しかし、現在ではカメラ付き携帯電話が当たり前で、銀塩写真は風前の灯火だ。
最新技術を積極的に取り入れた岡嶋作品も、さすがに今読むと時代を感じる。それでも、岡嶋作品の面白さは、テクノロジーの進歩に負けない。