岡嶋二人 20


そして扉が閉ざされた


2006/08/06

 石持浅海さんの『扉は閉ざされたまま』は、趣向が光る一作だった。「クローズド・サークル」が持ち味の石持さんだが、正直なところ『扉は閉ざされたまま』以外の作品はそれほど楽しめたとは言い難い。堂々巡りのロジックは、興奮ではなく退屈をもたらすからである。そこで気になるのが、よく似たタイトルを持つ岡嶋二人作品である。

 富豪の一人娘咲子が不審な事故死を遂げて三ヵ月後、遊び仲間だった男女四人が、遺族の手で地下シェルターに閉じ込められた! 四人は脱出を試みつつ、事故の当日の記憶をたどる。あの事故の真相は何だったのか? そもそも本当に事故だったのか?

 いやあすごいよ。舞台は地下シェルターの中だよ。文字通りの「クローズド・サークル」だよ。咲子の死を巡り、四人の男女があーでもないこーでもないと議論の応酬をするわけだが、これって石持浅海さんの得意領域そのものじゃないか。

 こういう極端な限定をしてしまうと、どんな手練れであっても堂々巡りの展開になるのは避けられない。実際、本作も途中で退屈になりかけた。それでもページをめくる手を止めさせない求心力は、さすが岡嶋二人。動きに乏しい現在のシーンを補うように、事故当日の回想シーンは大きく動くので、興味が尽きることはない。

 きっかけそのものはありがちな男女の愛憎のもつれなのだが、これは論理性を追求した結果だろう。登場人物を絞ると同時に、人物間の相関関係も極力シンプルにする。その代わり、魅力的な謎が用意されている。ああ、なんて不幸な偶然なんだ…。

 密室の謎を解くのではなく、密室に閉じ込められて謎を解くという人を食った設定。これこそ岡嶋流。謎解きの舞台が密室(しかも地下シェルター)である必然性は特にない。しかし、考えてみよう。普通に誰かの部屋に集まって謎解きをして盛り上がるだろうか? 別に石持さんの某作を引き合いに出しているわけではない、念のため。

 もうすぐ出る予定の石持さんの新刊を楽しみに待とう。って、誰の感想なんだ。



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