岡嶋二人 21


眠れぬ夜の殺人


2008/03/23

 未読の岡嶋二人作品5作品のうち、本作が重版されているのを発見し、即座にレジに持っていった。貫井徳郎さんの解説を読んで、本作の続編が『眠れぬ夜の報復』であり、山本山シリーズ以外にもシリーズ作品があることを今頃知った次第である。

 酔っ払いに絡まれ、つい突き飛ばしたら打ち所が悪く…という、現実にもありがちな事件が続発。大都会東京では珍しくもないこれらの事件に、何らかの繋がりがあるとしたら? 警察の人員を割くほどの確信はない。そこで秘密組織が動き出す。

 井上夢人さんの最新刊『the TEAM』を思い出す。警察物ではないが、秘密チームの活躍を描いている点は共通している。『the TEAM』に対する僕の評価は芳しいものではなかった。本作に対する評価も残念ながら高いとは言えない。

 チームリーダーである菱刈には、ほぼ全体像が見えているのである。聡美と相馬もかなり腕が立つが、菱刈の指示で動いているだけ。たとえ意味がわからなくても、基本的には菱刈の作戦の正しさを疑っていない。だから捜査は行き詰まることなく進む。

 ピンチがまったくないこともないが、危ない橋を渡っている彼らチームのこと、この程度はピンチのうちに入らないのかもしれない。すべて菱刈の計算通り。おそらく部下の聡美と相馬も、菱刈の素性を知らない。徐々に真相に迫る謎解きの楽しみを味わえないことはないが、菱刈に見下ろされているような気がして気持ちよくはない。

 貫井さんによると、「症候群」三部作のモデルになったのはこのシリーズだという。「症候群」シリーズにも、菱刈に該当するリーダーの環という人物が登場する。環の素性が不明な点は同じだが、部下たちには様々な背景があり、物語に深みがある。もっとも、感情に訴えるような手法は、岡嶋二人の美学に反するのかもしれないが。

 岡嶋二人の解散により、このシリーズは2作が刊行されたのみである。とりあえず講談社殿には『眠れぬ夜の報復』の重版をお願いしたい。



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