岡嶋二人 27


クラインの壺


2002/12/24

 最初にお断りしておこう。ネタばれがまったくないとは言えないため、本作を読む予定がある方は以下に目を通さないことをお勧めする。

 最近のゲームの進歩は目覚しい。僕がはまっていたのは高校の頃までだが、二頭身キャラクターが普通だった当時とは隔世の感がある。CGによる表現力は確かに向上した。だが、同時に壁に直面しているように思う。プロポーションが人間そのものになったために、逆にCGならではの不自然さがどうしても際立ってしまうのだ。

 そんな現在にあって、岡嶋二人として最後の小説作品となった本作は実に興味深い内容である。ある青年がゲームブックの原作募集に応募した作品がゲーム化されることになり、青年はモニターとしてプレイしながら開発に関わることになった。一切場所を明かされない謎の研究所には、画期的システムがあった…。

 何が驚いたかというと、既に廃れつつあるヴァーチャル・リアリティなんて言葉がなかった時代に、本作が書かれたことである。ここに描かれたシステムは、現在のゲーム技術のはるか先を走っている。初版刊行当時としては大胆な設定。今では目新しくはないかもしれない。しかし、その完成度は今読んでもまったく遜色ない。

 何を書いてもネタばれという困った作品である。何しろタイトル自体が堂々と…。ふざけんなと思う方もいるだろうけど、ここは術中にはまるのが吉。アイデアの勝利、構成力の勝利だ。僕は主人公の青年同様、まんまと罠にかかった。

 本作は岡嶋二人名義だが、現在は井上夢人のペンネームで活躍する井上泉さん単独で執筆したそうである。『オルファクトグラム』など斬新な作品を発表し続ける井上さん。当時のペンネーム通り、そのアイデアは「泉」のごとしだったのだ。

 遠い将来、ゲーム技術はここまで進むのかもしれない。だが、プレイヤーが想像力を働かせてこそのゲームではないのか…と、「ファイナルファンタジー」などの現代のRPGに魅力を感じない僕は思うのだった。「ドラゴンクエストII」は名作だったなあ。



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