奥田英朗 03


邪魔


2002/02/17

 宮部みゆきさんの『模倣犯』が圧勝した2001年の『このミス』で、本作は第2位だった。

 上司命令で素行不良の刑事、花沢を張っていた九野薫。そこに仲間とオヤジ狩りをしていた渡辺裕輔が絡んできた。虫の居所が悪かった九野は、裕輔を殴り飛ばす。騒ぎを聞きつけた花沢に張っていたことを知られ、九野は恨みを買う。

 東京西部の本城市にマイホームを手に入れ、家族四人幸せに暮らしていた及川恭子。しかし、夫が勤務するハイテックス本城支社で放火事件が起き、宿直だった夫の茂則が火傷を負う。恭子の平凡で幸せな日常が、急転し始める…。

 裕輔、恭子、九野。三人それぞれの物語が同時進行していく。派手な事件もなく(もちろん放火は重罪だが)最後まで読ませる語り口は文句なくうまい。

 簡単なヤマだったはずの放火事件。しかし、本庁から乗り込んできた管理官の指揮下、捜査は明後日の方向へと向かう。警察。ハイテックス。地元の暴力団清和会。警視庁殿には申し訳ないが、三者の利権が複雑に絡み合う展開には思わず含み笑いをしてしまった。これでは九野はピエロではないか。

 拭い去れない疑惑から、パートで勤務していたスーパーへの抗議行動にのめり込む恭子。それは明らかな現実逃避。何かに没頭せずにはいられない。しかし、孤独は募るのみ。恭子の性格までも豹変していく描写はどこか滑稽でさえある。

 不良が背伸びしただけなのに、なぜか警察とヤクザ双方にマークされる裕輔。九野と恭子に比べると、ちょっと存在感に欠けるか。まあ、ついてないよな確かに。

 読み終えてみて、主題は何なのさ? と言いたくなる作品だが、ここは人間関係の妙に注目して読んでみたい。どこにでもいそうな人々が、ふとしたきっかけから深みにはまる。暗い話には違いないが、不思議と読後感は悪くない。



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