奥田英朗 20 | ||
無理 |
『最悪』から10年、『邪魔』から8年。奥田英朗さんの新刊はその名も『無理』。
合併で誕生した東北の地方都市、ゆめの市。この寂れた市に住む5人は、それぞれに鬱屈を抱えていた。何の展望も開けないゆめの市で、5人の運命が動き出す。
視点人物が5人と、かなり多い。『最悪』は未読だが、『邪魔』の視点人物は3人だった。複数の人物の物語が同時進行し、最後に交錯していくという趣向は同じだが、完成度ははるかに高い。5人もの人物を描き分けながら、それぞれの鬱屈が訴えてくる。
自分も東北の田舎町出身なので、5人の鬱屈はよくわかる。商店街は廃れ、人が集まるのは大型店のみ。仕事はなく、若者は減る一方。有力者の利権は複雑に絡み合う。帰省する度に町の老化が進行しているように感じられるのは、きっと気のせいではない。
生活保護申請者への対応に嫌気が差している、県庁からゆめの市に出向中の相原友則。戻るまで適当にやり過ごすつもりが、まさかこんな恐怖が…。東京への脱出を目指して、予備校に通う久保史恵。一度は都会に出たいのが人情。まさかこんな恐怖が…。
暴走族上がりで、詐欺まがいの商売に手を染める加藤裕也。働いているだけまだましと言えなくもない。まさかこんなとばっちりが…。スーパーで保安員をしている堀部妙子は、孤独を紛らわすために新興宗教にすがる。まさかこんな罠が…。
そして、父の地盤を引き継ぎ市議をしている山本順一。利権者として我が世の春を謳歌している。いずれ県議への転出を目論んでいたが、まさかこんな…。
5人の運命が悪い方へ悪い方へと転がっていくのだが、これが面白くて面白くて。もうわくわくしてしょうがないのだ。身から出た錆だし、他人の不幸は蜜の味。季節を冬に設定する辺り、奥田さんもお人が悪い。久保史恵だけはちょっと気の毒か。
しかし、このクライマックスはやりすぎだろう。わははははは。田舎も都会も、誰もが鬱屈を抱えたこの世の中。美辞麗句が並んだ自己啓発書なんぞ読まないで、本作を読んでみませんか。愉快な気分になれるし、平凡な日常がどんなに幸せかわかりますよん。