恩田 陸 05

光の帝国

常野物語

2003/09/15

 「常野」から来たと言われる彼らには、皆それぞれに不思議な力があった。権力に与せず、普通の人々の中に埋もれてひっそりと暮らす人々。

 「常野」は「とこの」と読む。常に野にあれ。本作は、謎めいた常野一族をテーマにまとめられた作品集である。ファンタジーのようなSFのような、この掴みどころのなさはいかにも恩田さんらしい。かく言う僕はこれが4作目の恩田作品に過ぎないので、恩田ファンから見て正しい認識なのかは心許ない。

 常野という素材は文句なしに魅力的だ。だが作品としては、サイドディッシュを小出しにして小出しにして、メインディッシュはおあずけ…というような印象を受けた。銀の半球(何というのか知りません)の中身を想像して唾を飲むしかない状況とでも言おうか。

 恩田シェフの料理法は、ある意味では実に贅沢だ。表題作「光の帝国」を始め、十分に長編にアレンジできそうなネタが目白押し。小野不由美さんの「十二国記」シリーズに匹敵する一大巨編「常野物語」にすることさえ十分に可能だろう。それなのに手頃な作品集に収めてしまう。僕のように想像力に乏しい読者は唾を飲むのみ。

 と、同じようなことを『三月は深き紅の淵を』の感想にも書いていたのだった。どちらも贅沢極まりない作品集だが、印象は微妙に違っている。異なるメインディッシュを一つの皿に盛り付けられてお腹いっぱい、だけど何だか食べ足りないぞ、という『三月は深き紅の淵を』に対し、小皿が次々に出てきて、え? メインディッシュは? という本作。

 くだらないことをだらだら書いてきたが、結論は本作は魅力的だということだ。恩田陸という作家がいかに「大きな引き出し」を持っているか。読者はそのほんの一部しか見せてもらえないのである。何てずるい作家だろう。

 『三月は深き紅の淵を』については関連する作品が出ているようだが、本作については僕が知る限り続編は出ていない。いつかメインディッシュをいただけるのでしょうか?



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