恩田 陸 10


麦の海に沈む果実


2004/02/09

 第四章の学園の物語はこれだけで一作になる…と『三月は深き紅の淵を』の感想に書いたのだが、一作にしたのが本作『麦の海に沈む果実』というわけである。

 念のために書いておくと、『三月は深き紅の淵を』の第四章「回転木馬」全体が学園の物語になっているのではない。いわば作中作になっており、中途半端にフェードアウトしてしまう。本作の文庫版解説でも触れているが、あれは予告編だったのだ。

 広大な敷地を有する全寮制の学園。様々な事情で送り込まれた生徒たちは、どこか斜に構えている。そんな学園に、二月に転入してきた理瀬。彼女にのしかかる不吉な伝説。三月以外の転入生は、破滅をもたらす―。

 僕の経験上、予告編で面白そうだと思った映画はいざ観たら期待外れだったことが多い。ある意味当然である。予告編は面白そうだと観衆に思わせなければいけない。そういう点では予告編は見事だった。さて肝心の本編は…。

 結論から言うと、結末だけなら私的がっかり度はかなり高い。だが、同時にこうも思った。ここまで大風呂敷を広げると、結末はこれ以外にない、と。逆に言えば、意外な結末、驚きの結末にはしようがなかったのだ。

 恩田陸という作家はサービス精神旺盛なのだと思う。「大きな引出し」を持っていることは恩田さんの武器であり、魅力である。実際、本作には魅力が満載だ。舞台。演出。人物。全編に漂う陰湿ささえもその一つ。ただ、そのサービス精神ゆえに、いやがうえにも結末への期待が高まったのもまた確かである。

 笠井潔氏による文庫版解説(この方の解説はどちらかというと苦手なのだが)を読んで、いたく感心してしまった。僕は知らず知らずのうちに本作を学園ミステリーとして読んでいた。そう、ミステリーとしてだ。必ずしも結末が主で過程が従ではないことを、僕はミステリー読みの端くれとして肝に銘じるべきかもしれない。



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