恩田 陸 16


MAZE


2005/08/13

 ミステリーだのファンタジーだのというジャンルの境界線をぼやかし、曖昧にしてしまうのが恩田陸という作家の持ち味である。本作もまたそうした作品の一つだ。

 アジアの西の果て、白い荒野に立つ『豆腐』のような矩形の建造物。ここは、中に入った数多くの人間が消失したと伝えられている。一方で、戻ってきた人間もいる。人間消失のルールとは何なのか? 謎を明かすため、4人の男たちが荒野に降り立った。

 その中の一人、雇われてこの地にやって来た時枝満に与えられた任務は、安楽椅子探偵になること。滞在期間の7日間で、『豆腐』の謎、すなわち人間消失のルールを推理してくれという。ただし、制約がある。『豆腐』の中に立ち入ってはならない。

 この無理難題に対し、満は与えられた材料だけから推理を試みるのだが、『puzzle』の関根春にも匹敵する見事な想像力ではないか。中盤までのこの推理の過程だけでも十分に面白い。謎を残してここで終わっていれば。しかし、自分の推理を実証したいと思うのが人情。満と他のメンバーは、入れさせろ、入れさせないで押し合いへし合いになるのだが…。

 うーむ…広げた風呂敷をさらに広げたというか。個人的に最も白けるタイプの真相である。謎が提示された時点で、こりゃ納得できる結末にするのは大変だぞとは思ったが。だって…ねえ。あまりにも恩田陸らしくないと思いません?

 満を雇った神原恵弥(めぐみ)のキャラクターも影響しただろうと思う。女の兄弟に囲まれて育ったため、女言葉で話す恵弥。差別しちゃいけないとは思うが…。余談だが、後輩から聞いた話を思い出した。美容師になった友人が、女性客と会話しているうちにすっかり女言葉になったという。彼らにとって、話題を合わせるのも仕事。うーん、プロだねえ。

 それでも、現実的な解に何とか幻想的な要素を絡めようとしている点は恩田さんらしい。だからやっぱり、本作はれっきとした恩田作品なのである。傑作とまでは思わないが、文庫の価格税込550円分以上は十分に楽しめる一作だ。



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