恩田 陸 13


puzzle


2005/08/08

 本作は、祥伝社文庫創刊15周年記念として書き下ろされた中編である。当時は恩田陸を知らず、手に取ることはなかった。『象と耳鳴り』や『六番目の小夜子』に登場した関根一家の長男、春が主人公であるとの情報をいただき、読んでみることにした。

 序盤に並んだ記事の断片(piece)。もちろんこの時点で繋がりはわからない。期待よりも不安が高まってしまう僕は恩田作品を誤解しているのだろうか。とにかく読み進める。

 結論から言うと、もっと早く読んでおけばよかったと思う。この手ごろな長さに、恩田陸という作家の真髄がある。それは物語を紡ぐ想像力。一見無関係な点と点を、易々と線で繋いでしまう。話を考えてから引用文献を決めたのか、引用文献から話をひねり出したのか。いずれにしてもだ、恩田さん、あなたなら大喜利で座布団十枚は楽勝だろう。

 『象と耳鳴り』を読んだ方ならご存知の通り、関根春の職業は検察官である。同僚と二人、廃墟となった無人島へ上陸した春。検察官の仕事を、彼は次のように表現する。

…実際に何が起きたのかを、あとから再生するのはとても難しい。百ピースのジグソー・パズルのうち、無造作に抜き出した五つばかりのピースを並べてみたって、全体の絵を想像するのは不可能だからな。俺たちの普段の仕事はそれに近い。

 検察官という堅い職業を、ここまで言い切ってしまう。それは春が優れた検察官であるからであり、少ないピースから全体の絵を想像する能力があるからである。そして何より、類い稀な想像力を有する、恩田陸という作家の自負の表れではないだろうか。

 ファンタジーの要素は一切ない、純然たるミステリーであることだけは言っておこう。春がどんな絵(picture)を描いてみせたのか、それは是非読んで確かめてほしいが、各書店の在庫が少ないことが予想される。税込たった400円。見つけたら即買うべし。

 恩田さん、関根一家シリーズの続編をよろしく。



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