恩田 陸 31


クレオパトラの夢


2005/10/10

 ミステリーだのファンタジーだのというジャンルの境界線をぼやかし、曖昧にしてしまうのが恩田陸という作家の持ち味である。本作もまたそうした作品の一つ…かな?

 『MAZE』に続くシリーズ第二作との触れ込みだが、神原恵弥が再登場するもののまったく別の話である。前作を読んでいなくても問題はないが、いきなり神原恵弥というキャラクターに接したら戸惑うかも。『豆腐』の陰に隠れていた恵弥の濃さが爆発するのだから。

 双子の妹和美を東京に連れ戻す任務(?)を帯びて、北海道のH駅に降り立った恵弥。もっとも、彼の目的はそれだけではなかった。彼の行くところきな臭い影あり。やがて失踪する和美。彼女は何を隠しているのか。彼が求めるものは酷寒の地にあるのか。

 序盤からいい感じに風呂敷が広がっていく。やがて世界情勢だの外交問題だのにまで話は及ぶ。行け行け、これぞ恩田陸。恩田作品も半分以上を消化すると、心得たもの。どこまで風呂敷が広がるかを楽しむのだ。僕、何か間違ってますか?

 ところがところが、二転三転四転五転くらいした末に何てきれいなたたみ方なんだ。こういう言い方は失礼かもしれないが、2時間ドラマのような見事なフィニッシュ。有名な夜景を眺めながら誤解を解くなんて憎いじゃなあい。…深読みしすぎだってばあなたたち。

 サスペンス性はもちろんだが、恵弥と和美の腹の探り合いが読みどころ。お互い痛いところがあるだけに…。職業柄とはいえ、勘が鋭すぎるのも考え物。こんな兄弟は嫌だ。重要人物である若槻博士の存在感も負けていない。どうしようもなく研究者なんだねえ。

 風呂敷をたたもうと思えばきちんとたためるのよ、という恩田さんの自信が感じられる一作だ。これからもどんどん風呂敷を広げましょう。神原恵弥シリーズは継続するのだろうか。続きますよね。本作は物語として完結しているが、神原恵弥という人物はますます謎めいてきたのだから。というより神原家の血筋が謎か。



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