恩田 陸 35


夜のピクニック


2004/12/17

 いやあ、青春だねえ。

 年末恒例のランキングといえば『このミス』か『文春ベスト10』が思い浮かぶが、紀伊國屋書店のスタッフが実際に読んで面白いと思った本のランキング、その名も『キノベス』がサイト上で発表されている。本作は、2004年の『キノベス』で第1位となった。一般読者に近い立場にいる書店員から選ばれたことは、大きな意義があると思う。

 とある進学高の恒例行事である「歩行祭」。夜を徹して八十キロを歩き通すという、高校生活最後の一大イベントを迎える三年生たち。親友たちと語らい、また思いを寄せる人へ気持ちを打ち明け、それぞれの夜を過ごす。

 本作は、「歩行祭」のスタートからゴールまでを描いており、高校三年生たちの会話を中心に展開する。キーパーソンは二人。西脇融(とおる)と甲田貴子。二人は複雑な関係にあり、互いにわだかまりを抱えているのだが、当然ここで詳しくは触れない。

 本作はある意味で一幕劇と言える。したがって会話の重要性、難易度は必然的に高い。芝居がかりすぎてはいけない。淡々としすぎてもいけない。いい意味で高校生らしい青臭さを残した台詞回しの妙は、恩田陸ならでは。この方は同じ年に『Q&A』というまったくタイプの異なる作品も刊行しているのだから、恐れ入る。

 「持つべきものは友」とはよく言ったもので、二人とも友人に恵まれている。どこか屈折している二人が、素晴らしき友人たちに促され、ゴールへ向かいながら次第に打ち解けていく。賑やかに彩りを添える脇役陣も見逃せない。ちょっと嫌な奴も苦手な奴もいる。しかし、話してみれば案外いい奴だったということはなかっただろうか。

 自分は高校時代、好きだった人に打ち明けるどころか、ほとんど言葉を交わすこともなく卒業してしまった。こういう行事があったらねえ、というのは言い訳だな。自分と同年代以上の読者に強くお薦めしたい一冊だ。



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