恩田 陸 38


ユージニア


2005/02/28

 僕は本格というジャンルに、謎解きだけでなくすっきりした読後感も求めているのだと思う。本作を読み終えて、最初に考えたのはそんなことだった。

 ある地方都市の名家で催された米寿を祝う席で、17人が毒殺された。真犯人の自殺で一応解決をみたはずの事件を、当時近所に住んでいた女子学生が独自に調査し、本として出版した。『忘れられた祝祭』と題された本はベストセラーとなる。やがて本の存在もすっかり町の記憶の彼方へ埋もれた頃、様々な視点から再び事件にスポットが当てられる。

 言うなれば、事件の再調査の再調査という構図である。取材(?)を受ける事件関係者には『忘れられた祝祭』の作者も名を連ねているのだ。本文中から察するに、この本は真相を明確に指摘せずに終わっているらしい。

 入れ替わり立ち代わり関係者が語るのは、事件当時だったり『忘れられた祝祭』の刊行当時だったりと前後する。こういう読者をはぐらかすような手法が、恩田陸さんは本当にうまい。真相を小出しにしつつ読者の興味を繋ぎ止める、そのさじ加減がまたうまい。

 ある中心人物の存在が、読み進める力となっているのは明らかだ。幼少期から周囲の畏怖を集め、神格化されてきた女性。あるものと引き換えに、そんな彼女の神秘のベールが剥がれてしまったのは何とも皮肉な話である。事件の真相よりよっぽど興味深い。

 『夏の名残りの薔薇』のようなことはなく、真相は明確になるのだが、やっぱりもやもや感が拭えない。だが、そもそもこれが恩田さんの作風なのだという気もする。アプローチの一つとして否定はできないし、好みの問題と言うしかない。

 本格というジャンルは、真相だけを書けば数枚で済んでしまうものをいかに長編にアレンジするかの勝負である、と言ってしまうのはいささか乱暴か。途中経過はどうあれ、真相の一部が琴線に触れれば僕は満足したと言える。読後の「もやもや感」ゆえに、そういう点での満足度は低いかな。多視点という手法自体に新鮮さがないだけに。

 本の作者は言う。「しょせんはあたしのフィクションなの」と。そりゃそうなんだけどさ。



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