恩田 陸 43

エンド・ゲーム

常野物語

2006/01/10

 常野物語の新刊が早くも登場した。本作は、シリーズの予告編集のような『光の帝国』の中でも異彩を放つ一編、「オセロ・ゲーム」の続編である。というより本編と言うべきか。

 「オセロ・ゲーム」を読んでわかるのは、瑛子と時子の母娘が何やら正体不明の『あれ』と戦っているということ、そして父は『あれ』に裏返されたということ。父の能力は、群集に紛れ込んだ『あれ』を一瞥しただけでいっぺんに裏返すほど強大だった。その父を裏返した者とは一体? 以来、母娘は孤独な戦いを続けながら生きてきた。

 本作を読み終えて、僕は映画『マトリックス』を思い出した。何だかよくわからんけどかっこいい、というのが観終わった後の感想だった。本作の読後感想もまったく同じだ。

 時子がゼミの旅行から戻ると、母の瑛子が病院に運ばれたという連絡が入る。なぜだか眠ったまま意識が戻らないという。電話を受けながら、冷蔵庫にマグネットで留められていたメモがないことに気付く。そこにはあの電話番号が書かれていたのだ。

 常に裏返すか裏返されるかという『あれ』との緊張状態に置かれていた母娘が、罠に陥り誘い込まれた迷宮。『洗濯屋』を名乗る男。風呂敷の中の家。銀色に光るボーリングのピン。横木が×印に交差した鳥居が醸し出す禍々しさ…というように、一つ一つのシーンを切り出すと、極めて映像的で印象的だ。最新技術を駆使した『マトリックス』のように。

 しかし、それらを繋げて一本のフィルムにしてみると印象が薄いのはどうしたことか。瑛子のイメージでは、彼女たちの世界は紙のオセロ・ゲームだという。でも本当は、〇〇〇〇の〇だったってことだよね? 読者を「風呂敷に包む」なら素敵に包んでってば。

 ご存知の通り、『マトリックス』の続編として『リローデッド』『レボリューションズ』が制作されたが、僕は観に行かなかった。三部作の序章に過ぎない第一作のエンディングで十分に痺れたし、謎解きに興味が持てなかったからである。これはこれで終わりなのか、恩田陸だけに実は序章なのか、はてさて。このネタで長編にしちゃう能力はすごいと思う。



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