恩田 陸 48


いのちのパレード


2008/01/23

 『朝日のようにさわやかに』のあとがきで、恩田陸さんは「短編は難しい」と述べていた。短編集はしばらく出ないと思っていたので、嬉しい驚きであった。

 ここに集められた15編は、「Jノベル」(実業之日本社刊)に「奇想短編シリーズ」と銘打って連載された14編に書き下ろし1編を加えたものである。早川書房から復刊された異色作家短編集へのオマージュだという。もちろん僕は一冊も読んだことがない。

 ジャンルは多岐にわたるが全体的にオチのない話が多く、ミステリ好きにはお気に召さないかもしれない。謎の説明はないし、説明を求めてもいけない。

 この「観光旅行」、あなたは行ってみたいですか。B級っぽさがたまらん。どうして「スペインの苔」なのかさっぱりわからないが、お幸せに。哀しくも美しい極上の恩田流ファンタジー「蝶遣いと春、そして夏」。これは過去か現在か、唯一現実を彷彿とさせる「橋」

 恩田さんらしく現実と幻が溶け合う「蛇と虹」。つまりよくわかりません。作中の作家のぼやきは恩田さんのぼやきか「夕飯は七時」。でもこんな能力要らない。恐怖症には色々あれど、「隙間」恐怖症からは逃れようがない。男の行動に戦慄したのにオチが…。

 ロト6には当たりたいけどロト7の「当籤者」にはなりたくない。何でかたつむりなんだ「かたつむり注意報」。教え子の成長に目を細める(嘘)「あなたの善良なる教え子より」。劇団四季のファンはどう思うでしょうか「エンドマークまでご一緒に」

 恩田流鉄道ミステリ(嘘)「走り続けよ、ひとすじの煙となるまで」。この「SUGOROKU」、あなたは上がりたいですか。地球温暖化に警鐘を鳴らす「いのちのパレード」

 唯一の書き下ろしで、最後に収録された「夜想曲」は実に心憎い。千里の道も一歩から、千枚の小説も一字から。まずはペンを取ること。これは読者へのメッセージであると同時に、作家恩田陸の創作姿勢であるように感じる。誰にでも書くことはあるんだ。



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