恩田 陸 46 | ||
朝日のようにさわやかに |
短編集としては『図書室の海』以来であるから実に5年ぶりである。『図書室の海』も多様なテイストを持った作品集だったが、恩田陸初心者にはやや薦めにくい。本作の方が、手軽に恩田陸さんのテイストを堪能するには向いているのではないだろうか。
今回も収録されました『麦の海に沈む果実』外伝、「水晶の夜、翡翠の朝」。ミステリーかと思いきや、ビターな結末。いくらでも外伝が書けそう…。この御時世、ブラックジョークでは済まされないっしょ「ご案内」。短いのにこの重さ。ラジオのDJの会話だけで展開する凝った一品「あなたと夜と音楽と」。生放送中に謎解きをするんかい。大胆不敵。
恐ろしくスケールがでかい「冷凍みかん」。あなたはもう冷凍みかんが食べられない(嘘)。どうしてこんな話を思いつく? こちらも映像的な、余韻が残るファンタジー「赤い鞠」。意味を聞くのは野暮なんですかね。夜中に間食したくなったら読んでみよう、「深夜の食欲」。ほーら、まだ食べたい? そんな「いいわけ」が通用するかっ!
ノストラダムス(古っ)もびっくり「一千一秒殺人事件」。こういうのは山口雅也さんの得意領域じゃないか? かつて子どもだったあなたは「おはなしのつづき」が楽しみでしたか。運命は残酷だ。小説というよりは詩かなあ「邂逅について」。……。コメントできません。ミステリーランドの予告編「淋しいお城」。現代的テーマをはらんだ傑作。早く読みたい。
恩田さん自ら認める「普通の」話「楽園を追われて」。しんみりしつつも温かい。恩田さんが書くと逆に意外性を感じる自分っておかしい? 卒業シーズンにちっとも相応しくないじゃんかよ「卒業」。この短さでこのネタを使うのは恩田さんくらいかも…。
最後の表題作「朝日のようにさわやかに」は、これぞ恩田陸の真骨頂。この連想力と飛躍力の源は何だ。結末がちっともさわやかじゃないのは言うまでもない。
恩田陸さんにとって、短編はとても難しいのだそうである。次に短編集としてまとまるのはいつの日か。何年だって待ちますよ。本作にはそれだけの価値がある。