恩田 陸 50


不連続の世界


2008/08/13

 『月の裏側』の塚崎多聞、再登場! なのだそうだが、どんな人物だったっけ? 記憶していたのは、職業が音楽プロデューサーであることだけ。

 最初から難解。結局「木守り男」ってなんなんだ。この事件(?)が起きたのはバブル経済の真っ只中。一方で本編の初出は2000年。まだバブル崩壊の後遺症にあった時期である。それは破滅への予兆なのか。恩田さんらしくはあるが…。

 このタイトルは、ローリング・ストーンズの同名曲からのパクりか、「悪魔を憐れむ歌」。聴いたものは死ぬという曰くつきの曲に、音楽プロデューサーの血が騒ぐ(?)。多聞は、この真相を抱えたまま生きていくのだろうか。山を持っているって大変なのね。

 映画のロケ地として有名な尾道を舞台とした「幻影シネマ」。多聞は自らが担当するバンドのミュージッククリップ撮影に同行していた。多聞が本職で登場するのはこの1編だけ。メジャーデビューに当たり、ここまで世話を焼くのもプロデューサーの仕事なのか。

 日本で砂丘といえばあそこしかありません、「砂丘ピクニック」。建物の消失なんてケチくさい。これぞ史上最大の消失トリック。ただし、証拠はない。恩田さんは現地で確かめたのだろうか。酔っていただ…ごにょごにょ。人間消失の方はおまけみたいなもの。

 多聞を筆頭に、浮世離れした人物ばかりが登場するもんだ。ストレスとは無縁そうでうらやましい。不景気などどこ吹く風なんだろうねえ。と、思っていたら…。

 最後の「夜明けのガスパール」に唖然。フランス人の妻ジャンヌと音信不通になった多聞だが…個人的にはいただけない結末。多聞でもストレスを感じることはあることがわかり、ほっとしたようながっかりしたような。持つべきものは友ということで。

 恩田流旅情ミステリという趣向は面白いが、ふわふわと漂うように生きる多聞は、シリーズキャラクターとしては弱いかなあ、というのが正直なところである。



恩田陸著作リストに戻る