恩田 陸 53


訪問者


2009/06/04

 恩田陸さんの長編ミステリーを読むに当たり、結末にびっくり仰天したいという気持ちがまったくないわけではない。むしろ、一度体験してみたいと願っている。しかし、読み始める前から望み薄だろうとも思っている。本作もそんな気持ちで読み始めた。

 3年前、山中にひっそりたたずむ古い洋館に近い湖で、実業家の朝霞千沙子が不審な死を遂げた。そしてつい先日、千沙子に育てられた映画監督の峠昌彦が急死した。2件の死は事故死として処理されていたが…。朝霞家の一族は洋館に集まり、峠昌彦について取材したいという男の訪問を待っていた。その男の目的とは…。

 って、早々にばれているじゃないか。しかも、カバー折り返しに思い切り書いてある。この後が本番とはいえ、ネタに触れすぎだろう祥伝社殿。道路が崖崩れで塞がれるなど、典型的な「嵐の山荘」パターンのようだが、実は違う。これは一幕劇だ。

 恩田作品で一幕劇といえば『木曜組曲』を思い出すが、本作の方が盛り上がりながら読めたとは思う。『木曜組曲』が過去の議論に終始しているのに対し、本作は現在進行形の事件と、千沙子と昌彦の死という過去の事件(昌彦の死は直近の事件だが)の2本立て。恩田さんの語り口も、現在の方がより洗練されている。

 現在の事件だが、真相はそれまでの議論の延長線上にあり、大して驚かなかった。むしろ事件の後始末の方が興味深い。というより、朝霞一族の発想に呆れた。そんな方法がうまくいくんだろうか? 一方、過去の死の真相だが…いきなりこんな説が出てきて、唐突感が否めない。この唐突感が恩田流ミステリーの持ち味なのだが。

 それに、この幕引きで男の当初の目的は達成されたと言えるのだろうか? 何だか丸め込まれたような。これ以上、曲者揃いの朝霞一族を相手にする気力はないだろうけども。結局、本当の真相はどこにある。ああ、この瞬間が恩田陸だね。

 繊細なようで最後は豪腕を振るう、そんな恩田流ミステリーが、僕は好きですよ。だから、新刊が出たらまた買うだろう。



恩田陸著作リストに戻る