恩田 陸 56


私の家では何も起こらない


2010/01/11

 このところ微妙な作品が続いている恩田陸さんだが、新年早々届けられた新刊は…覚悟はしていたとはいえ、やっぱり微妙と言わざるを得ない。

 小さな丘の上に建つ二階建ての古い家に、作家の女性Oが引っ越してきた。かつて、この家では数々の血生臭い事件が起き、幽霊屋敷と呼ばれていた。

 本作は、この幽霊屋敷にまつわる10編を収録した作品集である。時間は連続せず、視点人物も変わる。いわば主役は幽霊屋敷。決して目新しい趣向ではなく、読者を驚かせるのは容易ではあるまい。期待半分、不安半分に読み始める。

 キッチンで姉妹が殺し合ったり。近所から子供をさらってきて解体し、主人に食べさせたり、一部を壜詰めにしてマリネにしたり。殺人鬼の少年が首を切って自殺したり。恩田陸作品としては異例なスプラッター描写を、受け付けないファンもいるだろう。

 ところが、怖いのかといえば、僕にはさっぱり怖くなかった。帯に「美しく優雅な」とある通り、血みどろの描写さえもどこか詩的だ。そう、綾辻行人さんのホラー作品のように。だがしかし、恩田陸さんのオリジナリティがどこにあるのか?

 別にスプラッターに徹しろと言うつもりはない。そうなったらもう恩田陸作品ではないのだから。僕が恩田陸作品に惹かれる理由の1つは、読者を驚かせるためなら多少の齟齬には目を瞑る、力業にあると思う。近年の作品では『きのうの世界』のような。

 敢えて本作をジャンル分けするならファンタジーだろうから、驚きを求めるのがそもそも間違っているのか。「俺と彼女と彼女たち」に、本作の本質があるように思う。曰く、死んでる人間なんざ、可愛いもんさ。そう言い切られると返す言葉がない。

 せめて、最後に収録された書き下ろしの「附記・われらの時代」に、何らかの企みでもあればねえ…と、ミステリー読みは思ってしまうのだった。



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