恩田 陸 59 | ||
夢違 |
小説の新刊としては約2年ぶりとなる。コンスタントに作品を発表してきた恩田陸さんにしては長いインターバル。もう紹介文だけでわくわくするぞぉ。
何と、今回の作品世界では、夢を映像として記録し、「夢札」としてデジタル化できるのさっ。そして、主人公の浩章は夢を解析する「夢判断」を生業としているのさっ。彼は亡くなったはずの女性の幽霊(?)に悩まされていたのさっ。そんな折、各地の小学校で頻発する集団白昼夢の調査を依頼されたのさっ。子供たちの「夢札」には…。
久々の大風呂敷である。しかもあーあ、こんなオカルト全開なテーマを持ってきましたか…。夢占いというのは聞いたことがあるが、映像として残るなんて恐ろしや。実現性はともかく、夢の中なら何でもありじゃないのか? 不安いっぱいに読み始める。
結論から言うと、本作は恩田陸さんの持ち味がいい方向に出ている。正直、結末にびっくりはしないし、謎の部分は有耶無耶にされた感もあるが、その点がマイナスではなく、むしろ効果的だ。サスペンスを謳っているが、幻想譚として素直に受け入れられる。
いわば他人の頭の中をのぞき視る、「夢判断」という職業は過酷だ。あまり「夢札」を視すぎると、現実と夢との境界が曖昧になるという。究極の職業病と言える。作中の人物だけでなく、読者の頭の中も曖昧にさせる狙いがあるのだろう。
浩章を悩ませる女性、結衣子。その運命は波乱万丈だった。結衣子こそ真の主人公であり、浩章も読者も彼女の影響下にあったことが、読み終えるとわかる。結衣子の幻影を追ううちに、ある可能性に突き当たる浩章。それを恐れて警察庁までが動く。
トラベルミステリーのごとく奈良へ飛ぶが、決着の舞台が吉野というのは何となく相応しい気がする。八百万の神々が祀られた地だから、『鹿男あをによし』のような突拍子もない話が受け入れられる。本作はだめという道理はあるまい。
大風呂敷を広げるだけ広げて、敢えて畳まない。なるほど、こういう手法もあるのだなと深く感心させられた。これだから恩田陸作品はやめられない。