小野不由美 15


風の海 迷宮の岸


2001/08/14

 十二国記シリーズの第二弾は、『月の影 影の海』より時代がさかのぼる。主人公は、戴国の幼き麒麟、泰麒(たいき)。

 十二国記の世界では、虚海の彼方に位置する日本を蓬莱国と称する。泰麒は陽子と同様に蓬莱国で人間として育ったが、十二国の中央に位置する五山の一つ、蓬山へと十年ぶりに連れ戻されたのだった。

 本作を一言で述べると、泰麒の葛藤の物語である。十年のブランクが泰麒を大きく苛む。詳しくは書かないが、泰麒には麒麟として当然できるべきことが何一つできない。世話をする女仙たちは優しく見守ってくれるが、泰麒にとっては余計に重圧となる。

 最初から最後まで、泰麒は悩んで悩んで悩み続ける。『月の影 影の海』と比較すると、じれったいったらありゃしない。見るに見かねて先輩麒麟(?)と引き合わせてもらうのだが、それでもだめ。そんな中、蓬山を登る人々の中から戴国の王を選ばなければならない日が近づく。麒麟は天啓によって王を見いださねばならないのだ。

 紆余曲折を経て、王は決まる。しかし、泰麒の悩みはさらに深まる。おいおいまずいだろそれは、と思っていたら、先輩麒麟のショック療法でどうにか決着する。うーむ、何だか〇ッ〇リ〇〇ラみたいなまとめ方だな。泰麒も僕も騙されてる気がする…。

 本作に描かれるのは、主として十二国記の世界の矛盾性であるように思う。麒麟がそんなに迷っていいのか? えっ、天啓ってそんなもんかい、というのが正直な感想である。ただ、泰麒が自らの役目に気付くと同時に、読者にも麒麟とは何かがよくわかるようになっている親切さは買いたい。と言うより、小野不由美さんの策略?

 何はともあれ、戴国の新しい歴史が始まる…のだが、『月の影 影の海』では戴国は争乱の渦中にあることになっている。泰麒のその後が大いに案じられるところだが、とにかく読み進むしかあるまい。



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