小野不由美 17 | ||
東亰異聞 |
小野不由美さんの実に9年ぶりの新刊が発売されるということで、未読だった作品を手にとってみた。タイトルは『東亰異聞』。なぜ「東京」ではなく「東亰」なのか?
明治29年の帝都・東亰。そこでは魑魅魍魎が跋扈していた。人魂売りに易者に首遣いに居合抜きに火炎魔人に読売りに闇御前に……多すぎるだろっ!!!!! そして、文楽人形を操る黒衣。現実に犠牲者が続出し、文明開化の世は震撼していた。
事件を追っていた帝都日報の記者・平河新太郎と、香具師を束ねる万造は、名門華族と知り合った。その名門・鷹司家の家督争いが絡み、事態はさらに混沌としてくる。
ジャンルにとらわれがちな読者には向いていない作品かもしれない。敢えて枠にはめるなら伝奇ミステリとでも言えばいいのか。僕のようにミステリー的に読んでしまうと、途中が退屈に感じられる。東亰の闇夜の妖しさを味わうべきなのか。
鷹司家の人間関係がわかりにくいのに加え、魑魅魍魎どもの種類の多さに混乱してしまう。個人的には、超大作『屍鬼』より体感的に長く感じた。つまり、物語に乗れなかった。『屍鬼』は物語の構図自体は明快だったのだ。『屍鬼』は現代物(?)だったが、本作はパラレルワールドとはいえ明治が舞台であることも影響しているだろうか。
どうにかこうにか終盤まで読み通したが、ミステリー読みにとっては脱力する真相が待ち受けていた。何だよそりゃあぁぁぁぁぁ…。まあ一応、本格の体裁をしていると思っていいのかなあ。ところがどっこい、本当の結末が待ち構えていた。
なるほど、読み流した序幕と繋がってはいるが…えええええぇぇぇぇぇ!!!!! 確かに裏切られたけど、気持ちいい裏切られ方ではない。どうせなら、こんな中途半端じゃなくもっと弾けた方がよかったのに。現在の「東亰」はどうなっているのだろう。
本作の初版刊行は1994年。その翌年には、阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件が発生した。それを根拠に、本作を「アルマゲドン前夜」の予兆めいた書物ではないかと言い切る文庫版解説は、さすがにこじつけに感じられる。