小野不由美 19


風の万里 黎明の空


2001/09/03

 十二国記シリーズ第4作に至りようやくわかったのだが、この世界はまともに統治されている国の方がむしろ少ないぞ。雁(えん)国は特別な存在らしい。

 今回は、『月の影 影の海』以来の陽子の再登場である。慶国の偽王を討伐し、晴れて景王として登極した陽子。しかし、前途は多難だった。先代景王・舒覚(じょかく)を始め、短命の女王が続いた慶国。またしても女王だったことに、聞こえよがしに落胆の溜息をつく下士官たち。そんな中、陽子は民の実情を知るため街へ出た…。

 とりあえず主人公は陽子だが、さらに二人の少女の物語が絡んでくる。目の前で両親を殺され、芳国公主の座を追われた祥瓊(しょうけい)。陽子同様、蓬莱から才国に流されてきた鈴。やがて、三人は運命的な邂逅(であい)を果たすのだ。川平慈英風に言うと…こんなにできすぎでいいんですか? いいんです!

 少々意地悪く言ってしまえば、水戸黄門みたいな勧善懲悪ものである。しかし、それぞれに苦難を抱いた三少女―陽子、祥瓊、鈴―の成長記という側面を見逃してはいけない。最初は己の不幸を嘆いてぐずってばかりいた彼女たちは、どこへやら。

 地位が人を育てるとは、まさにこのこと。宮廷では知り得ない国民の惨状を目の当たりにした陽子は、自ら水禺刀を手に敵に立ち向かう。さしずめ、十二国記版ジャンヌ・ダルク…いや、やっぱり水戸黄門か? 最後には正義が勝つとはわかっているんだけどね、でも面白いんだよなあ。恐れ入ったか豺虎(けだもの)どもよ。

 今回の蜂起により、多くの血が流された。陽子も、祥瓊も、鈴も、大切な人を失った。しかし、無血の改革はあり得ない。だから、景王・陽子は前を向く。ひたすら人目を気にしていた陽子はもういない。慶国の復興への道のりは、これから始まるのだ。

 「痛みを伴う改革」を掲げる我が国の首相殿、あなたはここまで毅然とした改革ができるか? もはや不況に無縁ではない僕は、本作を読んでそう思った。『〇ー〇はどこへ消えた?』なんぞくだらねぇぜ。これを読め。



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