小野不由美 27


残穢


2012/07/30

 小野不由美さんのもう1つの新刊は、メディアファクトリー刊の怪談集『鬼談百景』と密接な関係があるという。読み始めて納得。それもそのはず…。

 作家を生業とする作中の「私」に、1通の手紙が届く。送り主の久保さんによると、彼女が居住するマンションの部屋に、何かがいるような気がするという。背後で畳の表面を擦るような音がする。振り返ると何もいない。気にしないようにしていたが、やがて形になって現れた…。「私」は思い当たる。かつて受け取った手紙の内容に、酷似していると。

 怪異が起きているのはそのマンションだけではなかった。近隣の建売団地でも、頻繁に住人が入れ替わる物件があるという。周辺一帯の土地そのものの因縁を疑った「私」たちは、その土地の過去について調査を始めた。

 本作は書き下ろしホラーという触れ込みだが、関係者の証言を集めたルポルタージュような構成になっており、「虚」と「実」の境界が極めて曖昧な作品と言える。早い段階で、「私」とは小野不由美さんご本人と察せられるし、実録怪談で知られる平山夢明さんが協力者として実名で登場するなど、実際の調査記録のように感じられるのだ。

 発端は1つの怪談なのに、どんどん話が大きくなっていく。自殺や心中など怪死があったらしい証言も得られたが、むしろ謎は深まるばかり。何のために調べているのだろう。この辺が潮時かと思ったとき、ついに決定的事実が明らかになった…。

 なるほど、それがタイトルの意味だったのか。しかし、この論理はどうなんだろう。ホラーなのだから、科学的根拠を問う気はないが、発想があまりにも危険ではないか? そこでふと思う。子供の頃は、こういう発想をよくしたではないか。悪気もなく、無邪気に。

 ある意味、怪談そのものより気になったのが、「私」が体調を崩していること。これが事実なら、長い間新刊が出なかったのも無理はない。幸い回復したようだが。小野不由美さん以上の怪談蒐集家である平山夢明さんは、体調を崩したことはないのだろうか。

 怪談に深入りするのもほどほどに、ということか。



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