小野不由美 28


鬼談百景


2012/07/25

 書きも書いたり、全100編。同時刊行された小野不由美さんの新刊の1つ『鬼談百景』は、実に正統的で、夏にぴったりな怪談集と言えるだろう。

 子供の頃、怪談や心霊現象に興味を持った人は多いだろう。僕もその1人である。友達の家に泊まれば夜は怪談大会が恒例だったし、出るという噂のあるスポットがあれば行ってみた。昼のワイドショーの心霊写真判定のコーナーについ見入り、その夜トイレに起きると地獄である。頭の中から心霊写真が離れない…。と、余談はさておき。

 何しろ100編も収録しているのだから、1編辺りの長さは短いもので1p、長くても4pである。1編1編にさほどのインパクトはないし、どこかで聞いたような話ばかり。だが、実はそこがポイント。聞いたことがある話ばかりだからこそ、逆にリアルタイムに聞いているような臨場感がある。短いからこそ、だれることなく不気味な余韻が残る。

 当然ながら、矢継ぎ早に100編を読んでいると、最初の方はどんどん忘れる。しかし、ボディブローのように徐々に蓄積され、嫌な空気がまとわりついてくる気がするんだよなあ。通勤電車で読むよりは、深夜に1人で読む方がより効果的だろう。1編が短いだけに、途中で止めるタイミングが掴めない。もう1編。いやもう1編。どうしても手が止まらない。

 聞いた話をアレンジしたものもあるもしれないが、基本的にはすべて小野不由美さんの創作だろう。いかにもそれっぽく仕上げるのは、簡単なようで実は難しい。怪談とは、謎が謎のままでも許される数少ないジャンルであることを、改めて教えてくれる。

 僕自身はまったく心霊現象の体験がないし、金縛りに遭ったこともない。学生時代、ある超有名心霊スポットを毎日のように夜中に通っていたが、結局何も見なかった。だからこそ、怖いもの見たさでこういう本を貪るように読んでしまうのか。

 と、読み終えて気づいた。あれ、100編かと思ったら99編しかない? もう1編は新潮社から刊行された『残穢』だという説もあるが、はてさて。伝統的な怪談のスタイルである百物語では、100話を語り終えると本物の怪が現れるとされているが……。



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