小野不由美 29

丕緒の鳥

十二国記

2013/06/30

 『華胥の幽夢』以来、実に12年ぶりとなる十二国記シリーズの最新刊である。当然即座に入手したが…わくわくする内容ではなかった。

 と書くと誤解されそうだが、面白くなかったわけではない。本作にお馴染みの面々はほとんど登場しない。全4編に描かれるのは、名も無き者たちの苦悩である。特に後半2編では、民たちが過酷な運命に翻弄される。これも天の理なのか。

 「丕緒(ひしょ)の鳥」。新王の即位の礼で行われる「大射」の儀式。陶工である丕緒は、責任の重さに苦慮していた…というより、モチベーションがさっぱり上がらなかった。ぐだぐだ悩んだ末に結局は仕事を果たす。その美しさが文章からは伝わらないのが残念。

 本作の一押し「落照の獄」。以下、現実世界の用語で失礼。何人もの命を奪った罪人。この男は何度捕まっても殺人を繰り返し、とうとう下級審では死刑が下ったのだが…最高裁まで上げられ、処分は3人の判事に委ねられた。世論は死刑を要求するが、この国は長らく死刑を停止していた。いずれにせよ、国の混乱は避けられない、このジレンマ…。

 「青条の蘭」。山毛欅(ぶな)林が謎の疫病にかかり、次々と枯れていく。しかし、事態の深刻さが、民にも上官にも伝わらない。ようやくできた特効薬を、何とか王の許へ届けなければ…。国名が明記されていないが、ファンサイトを調べると、あるキーワードが国名を示していた。彼の努力が実ったのかどうか、想像するしかない。

 「風信」。こちらも国名は明記されていない。悪政で家族を失った経験を持つ少女。元々は外界に暮らす民だった彼女は、浮世離れした男たちに苛立ちをぶつける。暦が何の役に立つ? なぜ現実を見ない? しかし、こういう男も必要なのだろう、きっと。

 国王クラスを中心に描かれてきた十二国記シリーズ。ここまで下々の民にスポットを当てたのは初めてだろう。王宮の中だけが国ではない。外界には民の営みがある。そして、とばっちりを食うのも民。この世界は、実は現実世界とよく似ているのではないか。



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