小野不由美 25


華胥の幽夢


2001/10/14

 十二国記シリーズ初の短編集である。全5編に描かれる、十二国の現在、過去、未来。本作を堪能するためには、シリーズ全作を読み終えていることが必須である。

 「冬栄」。戴国王驍宗(ぎょうそう)の命で漣国へ赴いた泰麒。それは戴国の争乱が始まる前の、ほんのつかの間の話。泰麒にとって、その後の苦難―『黄昏の岸 暁の天』とはあまりにも対照的な、最も幸せだった頃。

 「乗月」。芳国公主の座を追われた祥瓊(しょうけい)。彼女を追いやった張本人である月渓(げっけい)に、景王・陽子から届けられた親書とは。言うなれば『風の万里 黎明の空』の後日談だ。祥瓊は変わった。そして、月渓も前に進む。

 「書簡」。慶国王として登極間もない陽子と、雁国の大学で勉学に励む親友楽俊。陽子の女王であるというハンディ、楽俊の半獣であるというハンディ。苦労は絶えない。それでも敢えて言う…元気でやっている、と。友のありがたさが身に染みる。

 5編中最も長い「華胥(かしょ)」。元々は長編のネタだったのではないだろうか。舞台は才国。厚い信望と天啓を得て才国王・采王となった砥尚(ししょう)。だがしかし…好転しない国情。日に日に病んでいく采麟(さいりん)。何故?

 これは是非長編で読みたかったな。十二国記シリーズとしては異例の、ミステリータッチの一作だ。鍵を握るのは、才国の宝重、華胥華朶(かしょかだ)。筋を通せば角が立つ。治世はかくも難しい。何だか現実社会を見ているようで切ないなあ…。

 「帰山」。六百余年もの大王朝を築いた奏国の王族でありながら、他国を放浪するある人物。他国はあまりにも脆い。しかし、永遠の王朝はない。奏国とて例外ではない。雁国も然り。慶国はどうなる。そして他国は…。

 十二国の歴史は、争乱と混迷の歴史だ。今後の展開は神のみぞ知る。我々の住む世界がそうであるように。ますます目が離せない。



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