乙一 01 | ||
夏と花火と私の死体 |
表題作である「夏と花火と私の死体」は、第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞受賞作品として集英社の雑誌「ジャンプノベル」に掲載された。1996年の発表当時、乙一氏の年齢は17歳。読書好きになる前の僕は、まだその名を知らない。
そして現在。乙一氏がデビューを飾った「ジャンプノベル」は、現在は休刊(ほぼ廃刊?)しているらしい。しかし、同誌から生まれた類い稀なる才能は、精力的に執筆活動を続けている。読書好きになった僕は、遅れ馳せながら乙一氏の作品を手に取った。
学生時代に若くしてデビューを飾った作家は少なくないが、高校生でのデビューとなると他に例を知らない。しかし、年齢がどうしたというのだ。ベテランだろうとルーキーだろうと面白い作品は面白いし、つまらない作品はつまらない。乙一氏のデビューがフロックではなかったことは、現在の活躍ぶりからも明らかだ。
「夏と花火と私の死体」は、発表当時衝撃を受けた名だたる面々―我孫子武丸氏、法月綸太郎氏、小野不由美氏―と同様に、一切の予備知識なしに読むべき作品だ。文庫版の解説も、裏表紙の紹介文も、あらゆる情報をシャットアウトして読んでみよう。
支障がない程度に述べると、演出のうまさに脱帽した。危機また危機。ここでは触れないある斬新さもさることながら、実に堂に入ったものではないか。ただし、ホラーとしての怖さを求める方には向いていない。
『石ノ目』の推薦文で、綾辻行人さんは乙一氏の作品を評して「斬新な懐かしさ」と述べている。僕の感想もそれに近い。単行本化に当たって書き下ろされた「優子」も、どこか懐かしい臭いがするが最後にどんでん返しが待っている。そう来たか。
初版の入手は困難だが、めでたく文庫化されているのは喜ばしい。小学生時代、わざわざ墓地を通って怪談に花を咲かせながら帰ったあなた(僕か)。そんなあなたのツボに、本作はぴたりとはまるだろう。