乙一 16


箱庭図書館


2011/03/31

 荒木飛呂彦作『ジョジョの奇妙な冒険』のノベライズ『The Book』以来、実に久々の乙一名義の新刊である。本作は6編を収録した短編集だが、待たされただけのことはある好編揃いの作品集だ。と、あとがきを読むまで思っていた。

 「小説家のつくり方」。20pちょっとしかないが、中身は濃密で訴える1編。極めて私小説的な内容で、もしやモデルは乙一氏自身? と勘繰ってしまった。

 「コンビニ日和!」。大手チェーンでも24時間営業でもない場末の店。閉店間際に客が飛び込んで来て…。その展開は読めなかった。短編ならではのアイデアが光る1編。

 「青春絶縁体」。部員2名の文芸部で罵り合う、2年生の小山雨季子先輩と、新入部員の主人公。自分も学生時代は彼のように不器用だったので(今でもか)、心情がわかる気がする。この青春小説は、誰にでも思い当たるふしがあるのではないか。

 「ワンダーランド」。サスペンスタッチでミステリタッチな、本作中では異質な1編。少年がこれほどまでに「鍵」に固執したのは、優等生を演じることに息が詰まっていたからか。定番のテクニックをさりげなく用い、嫌な後味を残すのがうまい。

 「王国の旗」。どこかで聞いたような話だが、乙一らしく料理はされているか。

 約100pと最も長い「ホワイトステップ」。あの概念だけなら定番と言えるが、雪と結びつけるアイデアが秀逸。滅多に積もらない雪が起こした、つかの間の奇跡。ネット時代だからこそ訴える1編。「切ない」系の王道的作品で、最後を飾るに相応しい。

 と、大満足で読み終えたのだが、へ? これ全部読者のアイデアかよっ!!!!!!!!!! そんな単行本聞いたことないぞ。作品を寄せた読者の発想と、リメイクした乙一氏の技量と、果たしてどちらをより賞賛するべきか。こんな企画が許されるのは乙一氏くらいである。

 なお、読者によるオリジナル版はこちらで読めます。



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