Overseas Ellery Queen | ||
シャム双子の謎 |
The Siamese Twin Mystery |
ついにたどり着いた、国名シリーズ第7作『シャム双子の謎』。本作読了後、僕は北村薫さんの『ニッポン硬貨の謎』を読み返してみた。北村さんのクイーン論を完全に理解したとは言い難いが、国名シリーズにおける『シャム双子の謎』の特異性には納得した。
今から思えばあれはかなりのネタばれだったわけだが、読み流していたのですっかり忘れていた。本作にはシリーズの恒例である「読者への挑戦状」が挿入されていない。読んでもらえばわかると思うが、このような作品構造では挿入する場所がないのである。
「雪の山荘」に代表されるように、本格ミステリの舞台を孤立させる例は、古今東西を問わず枚挙にいとまがない。ところが意外なことに、国名シリーズでは初めてである。捜査に当たるのは、エラリーとクイーン警視の二人のみ。何しろ孤立のさせ方がすごい。
ドライブ中に山火事に巻き込まれた二人は、命からがら山頂の屋敷にたどり着く。そこにいるのは何やらわけありの人間たちばかり。クイーン父子の到着を待つかのように発生した怪事件。殺人者がいる状況下で、衰えぬ火の手は屋敷に迫ろうとしていた。
派手なトリックもなく、トランプを頼りにした論理展開だけでは求心力に欠ける。しかし、死を意識せざるを得ない極限状態での推理は、いやがうえにも緊張感が高まる。もっとも、北村さんは山火事の設定を重視していないのか、一言も触れていなかったが…。
『このミステリーがすごい!』2006年版には、『ニッポン硬貨の謎』を読む上での予習ガイドが掲載されている。僕は無謀なことに一切予習せずに読んだわけだが、その結果エラリー・クイーンの作品を読む気になったのだから、いきなり読むのもありなのかも?
現代の読者が古典ミステリを知らなくても無理はないし、困ることはないかもしれない。だが、知れば知るほど楽しいこともある。僕は最近、そう思うようになった。国名シリーズを読み終えたら、色々な作家の作品を読んでみたい。本格の真の理解者を自認する方々には、我々素人に純粋に楽しさを伝えていただきたいものである。