Overseas Ellery Queen | ||
チャイナ橙の謎 |
The Chinese Orange Mystery |
国名シリーズも残り少なくなってきた。前作『シャム双子の謎』までを振り返ると、いずれも些細な痕跡から論理を組み立て、真犯人を絞り込むというパターンだった。そんな中、本作はシリーズで初めて物理トリックに重きを置いた作品と言える。
エラリーの親友にして宝石と切手の収集家として知られる、ドナルド・カークの事務室の待合室で、身元不明の男の死体が発見された。被害者の衣服はすべて逆に着せられ、本棚は壁を向き…部屋中のあらゆるものが「あべこべ」になっていた。さらに、被害者の体と衣服の間に、壁に飾ってあったアフリカの槍が差し込まれていた。その意図とは?
最初からぶっ飛んだ設定だなこりゃ。こういう設定に完璧かつ合理的な説明を求めてはいけない。読者には広い心で読むことが要求される。真犯人が隠したかった被害者の肩書きを示すある特徴だが、多くの日本人にはピンと来ないのではないか? 米国では馴染みがあるとしても、ここまで徹底するのはかえって不自然な…。
さあトリックだ。アフリカの槍を差し込んだ理由が明らかに。……。いわゆる密室トリックのバリエーションだが、エラリーさん、文章だけではイメージが掴めないよ。自分で絵を描いてみてやっとわかったが、そううまくいくんかい。実際、真犯人はうまくいくまで何度もやったと告白しているのだが。一発で実演を成功させるエラリーは大したもんだ。
正直、これが「読者への挑戦」にあるような「唯一の可能な解決」かというと、疑問符がつく。演出上、衣服がすべて逆だったり、槍が差し込んであったりした方が派手なのはわかるけども。だがしかし、突っ込みどころの多さはむしろ本作の魅力と言える。
マニアックな切手ネタもエラリーの引用句よりはるかに面白い。切手を集めた経験がある人は多いだろう。「月に雁」の値段に溜息をついた少年時代を思い出すが、こりゃ足元にも及ばない。ドナルド・カークの脇が甘すぎるのも突っ込みどころということで。
当時から「密室」にこんなひねりを効かせているとは、さすが先駆者だな。