Overseas Ellery Queen

スペイン岬の謎

The Spanish Cape Mystery

2007/04/17

 原書版では国名シリーズとして最後に当たる第9作である。創元推理文庫版『ニッポン樫鳥の謎』は、原題の"The Door Between"からわかるように正式には国名シリーズではない。その辺りの事情にはここでは深入りしないことにする。

 真犯人の目星を付けろというだけならば、国名シリーズ全9作の中で本作が最も易しいだろう。当然詳しくは書けないが、あまりにも「露骨」だからである。ただし、どうしてその人物だけが真犯人たり得るのかを説明できなければ、正解とは言えない。

 スペイン岬と呼ばれる花崗岩塊の突端にある別荘の海辺で、ジゴロの死体が発見された。被害者はなぜか裸でマントを羽織っていた。前作『チャイナ橙の謎』では、被害者の衣服がすべて逆に着せられていたが、またもやトリッキーな設定である。さすがに不自然さが拭えない前作と比較すれば、本作はまだ合理性があるとは言えるが…。

 別荘の所有者一家といい招待客といい、いかにも怪しそうな人物ばかり。真犯人探しの過程とはいえ、本作は殺害されたジョン・マーコの悪行を暴くことに大部分が割かれている。警察の立場からすれば、死体が裸だった理由など瑣末な問題である。

 それでも裸にこだわり続けるエラリー。そしてついに、最後のピースがはまった。なるほど、エラリーが解説する、自然までも計算に入れた真犯人の行動には納得させられる。だがしかし…このシチュエーションは滑稽すぎるぞ。予定が狂った真犯人がどんなに心細い思いをしたかを考えると、苦笑してしまう。映像ではお見せできません。

 今回エラリーと行動を共にするのは、父のクイーン警視より歳の離れたマクリン判事。76歳にして意気盛んな老紳士だが、それ以上に存在感を示すのは使用人のティラーだ。観察眼もさることながら、エラリーの引用癖に付き合えるとは只者ではないぞ。

 国名シリーズは傑作ばかりとは言えないが、現在でも用いられている手法のほとんどがこのシリーズに網羅されている。その点が名作たる所以なのだろう。



海外ミステリの部屋に戻る