Overseas Ellery Queen

ニッポン樫鳥の謎

The Door Between

2007/06/13

 創元推理文庫版では国名シリーズの1作として扱われ、『ニッポン樫鳥の謎』というそれらしい邦題が付けられている。しかし、原題は"The Door Between"であり、読者への挑戦状もない。『スペイン岬の謎』と本作の間に『中途の家(Halfway House)』という作品が刊行されており、この時点でタイトルの法則性は崩れている。

 本作の雑誌掲載時のタイトルは"The Japanese Fan Mystery"であり、単行本化の際に"The Door Between"に改められた、と創元推理文庫版の解説に明記されている。内容が扇(fan)に関係ないことからこのような邦題にしたという。しかし、かの江戸川乱歩が推測混じりに書いたことが事実として流布したという説もあり、はっきりしない。

 誤解されることを承知で書くと、国名シリーズは小説として読むと面白いとは言い難い。謎解きに特化しているのだからそこは割り切るとしても、贅肉が多く「読者への挑戦状」に至るまでが長い。ところが、正式にはシリーズ外の本作が、国名シリーズのどの作品よりも、小説として読みやすくすっきりしているのだから、何とも皮肉ではある。

 正直、これで読者への挑戦状が挿入されていたら怒るが、事件そのものは大した問題ではない。って、何だこの裏表紙の紹介文は! 思い切りネタばれだろうが! うっかり最初に読まなくてよかった。その後が大事だと言いたかったんだろう、きっと…。

 最大のポイントは、刑事捜査上は事件が解決した後にある。これまでは動機を重視せず(無視していたと言っていい)、事件の論理的解決にのみ興味を示していたエラリーが、真犯人の心理に踏み込む。論理至上主義者のエラリーが、事件の裏側を暴いてしまった。エラリーは苦悩する。この意外性は、シリーズ全作を読んでいてこそ際立つ。

 国名シリーズ終了後も、エラリーは探偵役として登場し続けるが、『九尾の猫(Cat of Many Tails)』ではあまりに悲劇的な真相に涙するという。作家エラリー・クイーンにとっても過渡期であることをうかがわせる注目作だ。エラリー・クイーンの作品は国名シリーズだけ読んでみるつもりでいたが、どうやらもっと読んでみる必要がありそうだ。



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