坂木 司 05


シンデレラ・ティース


2009/05/11

 柿生浩美が那覇のホテルで働いていた頃、友人の叶咲子は歯科医院で働いていた。『ホテルジューシー』に先立って刊行された本作を、ようやく読んでみた。

 ストレートな性格で決断力もある浩美に対し、押しが弱く優柔不断な咲子。そんな咲子は、母親に勧められるままに、医院でアルバイトすることを決めたのだが…行ってみると、そこは咲子が嫌いな嫌いな歯科医院だった。断るはずが…。

 世に歯科医院が嫌いな人は多くても、好きという人はいないだろう。僕だって好きではないが、逃げ出したいほど怖いわけではないし、必要ならば行くしかない。受付とはいえ、治療の音は聞こえてくる。筋金入りの歯科嫌いな咲子に務まるのか?

 結論から言うと、本作は大変面白い。坂木司作品の個人的ベスト1に挙げたいくらいである。得意の「日常の謎」系には違いないのだが、歯科医療に携わる者としての専門的視点から、謎を解いていくのが素晴らしい。いやあ、何てためになるんだろう。

 今回の探偵役は、歯科医ではなく歯科技工士の四谷謙吾。簡単に言えば歯の詰め物や入れ歯を作る専門職だが、彼の優れた観察眼は、ちょっとした傷や仕草から、相手の心をも読み解くのである。一見困ったクレイマー患者でも、裏には問題を抱えている。

 歯科医院を支えるのは歯科医だけではない。歯科衛生士に歯科技工士、事務のスタッフ。アルバイトの咲子も、れっきとした品川デンタルクリニックの一員なのだ。四谷たちに助けられつつも、咲子が職業意識に目覚め、成長していく物語である点も見逃せない。

 歯科通いは何度かしたけれど、治療は淡々としたものだった。別に不満はないが、ここまで患者とのコミュニケーションを密にする歯科医院はどれだけあるのだろう。本作を読み終えてそう思った。最近はなるべく歯を残す方向で治療するのだという。

 それぞれに貴重な夏休みを過ごした浩美と咲子。探偵役が頼りない『ホテルジューシー』と、探偵役が引っ張る『シンデレラ・ティース』。読み比べると好対照で興味深い。



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