瀬名秀明 06


虹の天象儀


2001/10/30

 本作は、昨年も刊行された祥伝社の400円文庫の第2弾として刊行されている。400字詰原稿用紙150枚。長編と呼ぶには短いが、待望の小説の新刊である。

 舞台は、2001年3月11日をもって閉館となった、東京・渋谷の五島プラネタリウム。閉館の報道を耳にするまで、そもそも渋谷にプラネタリウムがあるとは知らなかった。1957年のオープンから、44年。その間に東京は変わった。今でも変わり続けている。何かに急かされるように。

 しかし、カール・ツァイス社製のIV型プラネタリウム投影機は、44年間現役で働き続けた。変化を止めない東京にあって、変わらぬ夜空を投影してきた。これは素直に凄いことだと思う。カール・ツァイス社製の投影機の素晴らしさはもちろん、整備を担当した技術係の情熱があったからこそ、44年間の使命はまっとうされたのだ。

 そんな五島プラネタリウムで、解説員兼技術係として最後の仕事を終えた男。閉館後の解体作業が進むある日に起きた、不思議な出来事とは…。

 肝心の内容は、まあ読んでみてください。『八月の博物館』に通じる素敵なファンタジーだ。出来すぎなくらい…って素直に感動しないへそ曲がりな僕。実在した人物が登場する大胆な展開に注目だ。当然僕は聞いたこともない作家と、その作品を題材にする発想は瀬名さんならでは。本作のタイトルの由来になった、神秘的な現象を僕もこの目でみたい。

 『八月の博物館』を契機に、瀬名さんの作風は変わりつつあるようだ。ホラーだのSFだのジャンルはどうでもいい。一作でも多くの作品を、読者は待っている。

 なお、瀬名さんのサイト内に本作に関する特設ページが設けられている。五島プラネタリウムの最終投影も観ることができる(※現在は観られません)。実は観ながらこれを書いていたりして。にわか天文少年だったあなた(僕か)は是非ご覧あれ。



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