瀬名秀明 07 | ||
あしたのロボット |
1951年4月から1952年3月、雑誌「少年」に手塚治虫作『鉄腕アトム』は連載された。設定によれば、2003年4月7日に鉄腕アトムは誕生した。現在時間でもう半年ほどだ。
さて現在。昨年の紅白歌合戦に登場したホンダの二足歩行ロボットASIMOや、ソニーのペットロボットAIBOが話題をさらったことを覚えている人は多いだろう。そう、あれが現実世界のロボット技術―狭義のロボット、すなわち人間型を含む擬似生物型ロボット―の最先端だ。凄い技術である、念のため。
僕自身、小さな頃からロボットたちが当然のように人間社会に溶け込んでいる漫画に、アニメに、特撮作品に接してきた。彼らは言葉を操る。人間のように感情を有し、悩み、怒り、喜ぶ。現実はあまりにもほど遠い。だが、実現してほしいのかといえば…。
瀬名秀明さんの待望の新刊は、タイトル通りロボットをテーマとした連作作品集である。2001年から近未来の2030年まで時系列に描かれるのは、ロボットに携わる技術者たちの苦悩の姿である。漫画や特撮に夢を馳せた幼少の頃とは違い、彼らは現実と対峙し、悩む。正直かなり地味に思える装丁は、本作のテーマに相応しい…というのは深読みだろうか。薔薇色じゃない、灰色。霞んだ視界。晴れない視界。
脳をテーマにした大作『BRAIN VALLEY』と、本作は無縁ではないと思う。人間型ロボットの知性の育成と、人間の脳の解明。果てしない両テーマは一体関係にある。本作に描かれた近未来でも、ロボット技術同様に脳の解明はきっと壁にぶつかっている。両分野に携わる研究者には申し訳ないが。逆に言えば、すべての解決を僕は恐れている。
ラストを飾る「アトムの子」と同タイトルの山下達郎の曲をふと思い浮かべる。どんなに大人になっても…僕らはアトムの子供さ…。現在ロボット技術に取り組む技術者たちの目に映るのは、無限の可能性か、限界か。夢があっていいよねえ何て思うのは無責任だろうか。そう、夢は残酷なまでに無責任だ。
悲観論一辺倒ではないことは付け加えておこう。技術者たちは葛藤しながら進むべき道を探る。無責任な夢を描いていないからこそ、本作は訴えてくる。