真保裕一 01


連鎖


2000/09/30

 現在では真保さんの作品は長いと相場が決まっている感があるが、第37回江戸川乱歩賞受賞作となった本作は、お手頃な長さにまとまっている。江戸川乱歩賞の規定枚数に収めたためなのだが。

 本作のテーマは、ずばり食品汚染。チェルノブイリ原発の事故によって放射能に汚染された食品が、検査の網をかいくぐって輸入されていた。厚生省の元食品衛生監視員である羽川は、汚染食品横流しの真相究明に乗り出すが、やがて死の脅迫が…。裏に隠された真相とは?

 文庫版解説によれば、食品汚染という一風変わったテーマにばかり注目が集まったことは、ご本人としては心外だったらしい。とはいえ、日常に深く関わるテーマだけに、無理もないことではないかとも思う。

 もちろん、食品汚染に警鐘を鳴らしたかったのではないだろう。本作を読んでいると、随所に真保さんの苦労の跡がしのばれる。ミステリーとしての展開にも工夫が凝らされている。真保さんの言い分もわからないではない。しかし、どこかぎこちない。正直に言って、後半からラストにかけての急展開には戸惑った。

 大変失礼ながら、本作の受賞はいわば先物買いだったように思う。東野圭吾さんの『放課後』のように。しかし、これから化けるであろう新しい才能を見出すのが新人賞の趣旨だと考えれば、これほど相応しい受賞作はない。ドラフト一位のルーキーが伸び悩むなんてことは、よくある話である。

 食品検査に限らず、国による検査の何と穴だらけなことか。さすがに、本作刊行当時よりは検査体制が強化されているだろうけど。牛乳くらい安心して飲みたいものである。



真保裕一著作リストに戻る