真保裕一 19 | ||
繋がれた明日 |
真保さんと東野さんは、不思議とネタがかぶる。昨年11月には共に誘拐をネタにした作品を刊行した。そして今年、東野さんは服役中の兄を持つ弟を主人公とした『手紙』を刊行した。真保さんの新刊は、仮釈放された男が主人公だ。
以下、僕の見方がやや辛辣であることをお断りしておきたい。
殺人罪で五年から七年の懲役刑となり、六年後に仮釈放となった隆太。彼を待ち受けていたのは悪意に満ちた中傷ビラだった。この男は人殺しです――。
理由がどうあれ、殺人は償いようがない罪。本人にも家族にもレッテルがついて回る。悪いのは自分だと頭の中では理解している。だが、悪いのは自分だけなのか? 拭い去れない思い。嘘の証言をした目撃者への恨み。
隆太が誠心誠意罪を悔いているわけではない点が本作のポイントであり、塀の外に待ち受ける現実を描き出すことに成功している要因の一つだろう。中傷ビラをまくという卑劣な行為に怒りを覚える一方で、読者は隆太にどんな目を向けるだろうか?
塀の中ではある意味保護されている受刑者の多くが、塀の外で味わう孤独に耐え切れず、再び塀の中へ戻ってしまうという現実。それを思えば、隆太の何と恵まれていることか。家族、保護司、職場の仲間。彼を支える多くの存在を思えば、ラストに至るまでの一連の行為は裏切りであり、顔に泥を塗ったと言い切っていい。
正直、素直に隆太の再生の物語とは受け止められない。いっそのこと、破滅に向かって突っ走った方がずっと納得できたし、タイトルに相応しかったのではないか。
と書いたものの、どんな結末なら納得できるのかは人それぞれだろう。そもそも、万人を納得させる結末などないのかもしれない。それほどまでにこのテーマは難しい。真保裕一の手腕をもってしてもだ。繰り返しになるが、殺人は償いようがない罪なのだから。
せめて隆太の最後の言葉だけは、本心から出たものだと信じておこう。