真保裕一 24 | ||
最愛 |
人はどこまで一途でいられるのだろう。
最愛の人に前科があることを知ったとしたら。しかもその罪は殺人だったとしたら。それでも過去は関係ないと言い切れるか。それでも今まで通り愛し、尽くすことができるか。
人はどこまで正義を貫き通せるのだろう。
相手がヤクザ者だろうと、悪いことは悪いと臆せず注意できるか。相手が暴力に訴えようと、一歩も引かずに立ち向かえるか。誰が相手であっても最後まで筋を通せるか。
小児科医の押村悟郎の携帯電話に、警視庁の刑事から連絡が届く。18年間会っていない姉が、意識不明で救急病院に搬送されたという。火傷で重傷の上に、頭部には銃創。しかもそれは、伊吹という男と婚姻届を出した翌日の出来事だった…。
という衝撃的なオープニングで始まる本作。主人公は院内でマナーを守らない母親から携帯電話を取り上げるなど、筋を通す一面を持つ。そんな彼は、姉の自宅アパートに届いていた数少ない年賀状を頼りに、姉の、姿を現さない夫の痕跡を執念深く追う。素人捜査とはいえ正面からぶつかりすぎな嫌いがある。なるほど、姉と同じ血が流れているようだ。
しかし、悟郎は姉の千賀子の足元にも及ばない。こうと決めたら譲らない。いささかも揺らぐことがない。迷わない。どうしてそこまで人のために身を投げ打てる? マハトマ・ガンジーやマザー・テレサにも匹敵する崇高さ。弱きを助ける一方で、自らを徹底的に追い込むような生き方は、感動よりも息苦しさを誘う。伊吹でなくても会わせる顔がないだろう。
追い討ちをかけるようにこの結末…。小説の評価は、登場人物に共感できるかどうかに大きく左右される。そのことを強く実感させられた作品だ。『奇跡の人』より難易度ははるかに高い。ここまでキーパーソンの誰にも共感できない作品は、ある意味すごい。