真保裕一 29 | ||
ブルー・ゴールド |
タイトルの『ブルー・ゴールド』とは、水を指す。人類に必要不可欠な水。地球上の水のうち淡水が占める割合はごくわずか。それ故、ビジネスの対象となり得る。
久々に硬派なジャーナリズム路線かと期待して手に取った。ご本人は本意ではなかったようだが、かつては緻密な取材で名を馳せた真保裕一。だが、21世紀に入って以降は、取材に頼らない路線を模索しているように感じられる。同時に、真保作品が話題に上ることはめっきり減ってしまった。それだけに、原点回帰かと思ったのだが。
大手商社の葵物産から、零細会社「ゴールド・コンサルタント」へ左遷させられた藪内之宏。悪名高い社長の伊比大介と共に、長野県の酒造メーカーを大胆な手法で(要するに汚い手法で)手に入れる。だが2千億円の取引成立寸前に邪魔が入り…。
真保さんのジャーナリズム路線といえば、苦い読後感が残るのが常であった。それが一般読者にとってのとっつきにくさであり、ファンにとっては魅力であった。明るいトーンの作品は『奪取』くらい。本作は、高い評価を獲得した『奪取』を意識したのかどうか、全体的な雰囲気はライトである。結末もあっさりしていて、え? これで終わり?
それというのも、伊比という男のキャラクターが大きい。序盤の汚い手法にも嫌悪感がわかないし、ピンチに陥っても同情はしない。うーむ、魅力的なキャラクターなのかなあ…たぶん。一応主人公らしい藪内も含め、他の人物は皆伊比に食われている。1人で秘密を握り、主導権は常に伊比にあるのだから、当然といえば当然なのだが。
話を重くする要素には事欠かない。ペルーの水道事業入札における苦い過去。藪内自身の過去に、「ゴールド・コンサルタント」の同僚である由美子や犬塚の過去。何より、敵方の首謀者の過去。動機の面では、敵方にこそ同情の余地が大いにある。かつての真保作品を思えば手ごろな長さだが、端折りすぎて軽くなった感は否めない。
では、本作は痛快路線を目指したのか? 残念ながら、帯にあるような「息を呑む頭脳戦&どんでん返しの連続」とも思えなかった。