真保裕一 30


天使の報酬


2010/12/28

 映画の原作として書かれた『アマルフィ』以来の、邦人保護担当領事・黒田康作の再登場である。本作は、フジテレビ系連続ドラマ『外交官 黒田康作』の原作だとか。

 「小役人シリーズ、長編書き下ろしで復活」という触れ込みである。『アマルフィ』にも小役人シリーズの香りは感じられたが、映画の原作という縛りから、創作の自由度は低かったのではないか。本作は、真保さんが本当に書きたいことを書いた印象を受ける。

 サンフランシスコで日本人女子大生・霜村瑠衣が失踪する。父親の元信と共に、アパートの捜索に立ち会う黒田。瑠衣の容疑は、テロ準備罪だという。瑠衣の周囲にちらつく、日系ボリビア人や日本人ジャーナリストなどの不審な影。元信は何かを隠している…。

 あれっ? 黒田は序盤で日本に派遣され、舞台は東京に移る。世界を股にかける外交官の黒田が、東京を這いずり回るのだった。ドラマの原作という都合上、予算に制約があるので東京を主な舞台にした、というのはうがった見方なのだろうか。

 舞台を限定された以外は、真保裕一のやりたい放題。外務省内、警視庁内の縄張り争い。外務省と警視庁の駆け引き。官僚をばっさり斬り捨てては、返す刀で日本人を批判する。いやあ、これだよこれ。まさに小役人シリーズだよ。

 捜査権限がないはずの外務省だが…黒田のやっていることって明らかに捜査だろ。外事3課の大垣警部補とはすっかり打ち解け、課長にはあなたは警察庁に入るべきだったと言われているし。というか、公安部が部外者と手を組むんかい…。

 どんどん膨らむ謎と、どんどん増えるキーパーソン。2人の愚か者の行為が、国家を揺るがす事態に繋がったとだけ書いておきましょう。決着をつけるため、黒田が再びサンフランシスコに飛ぶと、拍子抜けするオチが用意されていた…。まさに骨折り損のくたびれもうけ。とはいえ、実際にこんなことがあったら、そりゃ必死で隠蔽するだろう。

 そもそもの首謀者の動機とか、色々と突っ込みたくなるが、それだけ楽しめたということでもある。やりすぎなくらいでいいじゃない。来年6月には、早くも黒田シリーズの新刊が予定されている。しかし、本作をドラマでどこまで忠実に描けるのかね?



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