真保裕一 27 | ||
アマルフィ |
本作は、真保裕一さんの作品としては『ホワイトアウト』以来の映画化作品だが、『ホワイトアウト』とは違い、最初から映画化を前提に書かれている。
主人公は、邦人トラブル対応で世界を飛び回る外交官の黒田。本作を読み始めて、小役人シリーズと呼ばれた初期の3作品『連鎖』『取引』『震源』と同じ空気を感じたのは僕だけだろうか。序盤から、黒田は皮肉交じりにローマの日本大使館のスタッフや、日本の外交姿勢を切り捨てる。久しぶりに真保節を読んだ気がする。
黒田がローマに着任した途端、日本人少女誘拐事件が発生する。黒田は少女の母・矢上紗江子と共に、イタリア中を駆け巡る。まず全編イタリアロケという構想が持ち上がり、それに合わせてこんな壮大なストーリーが作られた。何ともはや。
単なる身代金目的ではないことは、お約束である。黒田と紗江子が核心に迫れば迫るほど、ますます犯人グループの狙いが見えず、むしろ不自然さが際立つ。期待が高まる以前に心配になってきたことを告白しておく。紗江子さん、そんなこと隠すなよ…。
ようやく真相が見えてくるのは、残り100pを切った辺りから。さらにさらにスケールアップする展開には唖然とするばかりだ。事件の背景にある問題について、僕には報道されている以上の知識はないが、エンターテイメントのネタにしてしまっていいのだろうかという気もしないでもない。それでも、これほどのプロットを作り上げた手腕は見事。
日本大使館の建前と本音が交錯する中、自らの信念を貫く黒田の正義感。母として自らを奮い立たせる紗江子。ハイテクを駆使して最新セキュリティーの盲点を突く計画。人物といい、展開といい、エンターテイメントとして見せ場を心得た快作だ。何の落ち度もないのに利用された矢上母娘は、お気の毒としか言いようがない…。
気になるのは、あのシーンは撮影可能なのかということ。相手が相手だけに、ロケに協力してもらえるとは思えない。原作と映画には違う点もあるそうだが。何はともあれ、主演は『ホワイトアウト』と同じ織田裕二。映画との相乗効果で、真保作品としても久々のヒットが予想される。本作が、真保裕一の反撃の足掛かりになることを願いたい。