真保裕一 32


アンダルシア


2011/06/16

 前作『天使の報酬』に続き、早くも届けられた外交官・黒田康作シリーズ第3弾。前作は主に東京で展開したが、今回は世界を舞台に黒田が思う存分暴れ回るっ!

 出張でスペイン・バルセロナの総領事館に来ていた黒田。そこに、アンドラでパスポートと財布をなくしたという日本人女性からのSOSが入る。バルセロナから車を飛ばせば3時間ほど。颯爽と出かけていく黒田だったが…。ここで一つ確認しておきたい。

 フランスとスペインに挟まれた小国・アンドラには、日本の在外公館が置かれていない。アンドラは在フランス大使館の管轄であり、パリに連絡するよう伝えるのが筋なのだ。しかし、面倒に首を突っ込まずにはいられない黒田。パリまでの距離を考えれば、バルセロナに振られるというのは正論だろうが、黒田はバルセロナ総領事館の人間でもない。

 ところが、その女性が黒田の手を借りてアンドラから出国した後、殺人事件が発生。治安の良好なアンドラではめったにない事件。被害者はフランスの情報機関に関わりがあるらしく、アンドラ警察にフランス警察が乗り込んできた。捜査の主導権を渡せという。さっさと渡したい上層部。しかし、部下は素直に引き下がりはしなかった。

 黒田も「小役人」だが、本作に関する限り、バスケス警部補たちアンドラの警察官こそ「小役人」と呼ぶに相応しい。1993年に国連に加盟した独立国家だが、国防など多方面で旧宗主国であるフランスとスペインに依存し、立場が弱いアンドラ。それでも、我が国で起きた殺人事件の犯人は、我々が捕まえる。そんな小国の警察官の矜持が心地よい。

 女性はフランスとスペイン、両国の警察から追われる身となるが、黒田も黒田で適当なところで手を引くということを知らない。どんどん膨らむ疑惑。役人としてはつくづく損な性格だ。本来の職務を逸脱して捜査に手を染めるのはお約束だが、映画のようなアクションまで繰り広げるのはちとやりすぎだろう。いや、映画になるんだったか。

 それにしても、外交というのは狐と狸の化かし合いなのね。EUは決して一枚岩ではなく、経済統合を急いだ結果軋みが生じているのは報道の通りだが、決して報道されない水面下のせめぎ合いが色々あるのだろう。ほぼ1年毎に首相が替わり、また替わろうとしている日本の外交が、心配になってくる。いっそ黒田外務大臣にするか。



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