梓崎 優 02


リバーサイド・チルドレン


2013/09/30

 首を長くして待ちわびた、『叫びの祈り』以来の梓崎優さんの新刊が到着した。最初にお断りしておきたい。前作のようなミステリー性に期待しすぎると、落胆するかもしれない。本作に、ミステリー的な技巧が入り込む余地はないのだから。

 ミステリーの体裁をとってはいるものの、実質的にはノンフィクションに近いのではないか。驚きや意外性に重きは置かれていない。カンボジアを舞台にした本作に描かれているのは、誰もが見て見ぬ振りをしている現実である。

 主人公の少年は、いわゆるストリート・チルドレン。日本人の彼が、カンボジアの地でストリート・チルドレンになった経緯には触れずにおく。彼を含む一団は、川辺の小屋で共同生活を送り、ゴミを拾って売ることでその日の糧を得ていた。

 貧しいながらも助け合って暮らしていた彼ら。しかし、リーダー格の少年が射殺され、ささやかな安息は破られた。その後も次々と殺されるストリート・チルドレン…。底辺に生きる彼らに対する、あまりに酷な仕打ちに、読むペースは上がらない。

 ストリート・チルドレンという言葉くらいは聞いたことがあっても、実情を知る日本人は少ないだろう。日本における「格差」など比較にならないほど、彼らの立場は過酷だ。街では忌み嫌われ、人間扱いされない。「黒」は彼らに銃口を向けることを躊躇しない。

 連続殺人の背景を、切実さを、我々日本人が真に理解するのは困難だろう。ここに描かれたカンボジアの現実を、日本人が批判する資格は果たしてあるのか? かつては豊かさを謳歌していた日本人少年の目を通し、重い問いを投げかけている。

 幼くして仲間の死に直面した日本人少年。正直、彼がこの境遇から脱する手段はあっただろう。あの人物に泣きつくこともできたはず。そうしなかったのは、きっとあのリーダー格の少年がいたから。彼は今日もゴミを拾って生きる。明日も、明後日も。

 これを救いのある結末と見るかどうか。彼にとって何が救いなのか、それは彼にしかわからない。一つ言えるのは、彼らは強いということ。



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