鈴木光司 06


仄暗い水の底から


2002/02/17

 鈴木光司作品、またまた映画化ですかい。同タイトルの原作は、七編からなる短編集である。公式サイトなどから、基になっているのは一編のみであることは察せられたが、観ないで悪口を言うのも失礼なので、再読の上観ることにした。

 映画は実によくできていたと思う。よくぞ一編だけでここまで引っ張ったもんだ。わかっていてもハラハラさせられたのは演出の勝利だろう。うーん、親子の愛ですな。

 さて、映画の原作は本作の最初に収録された「浮遊する水」だが、全体としてはある老女が孫に語った七つの怪談、という体裁になっている。全編が「東京湾」というキーワードで結ばれている一方、親と子の血の連鎖に重きを置いている作品が多い。分類上「ホラー」であるが、メッセージ性の強さはいかにも鈴木さんらしい。

 「浮遊する水」における母子家庭の親子愛。「孤島」における歪んだ願望と本能。「穴ぐら」における争えない猛る血。最たる例はラストを飾る「海に沈む森」だろう。ほとんど記憶にない父から届いた手紙。その血を引き継いだ子は、ようやく父の思いを知る。この作品はプロローグ、エピローグと密接に関わっている。

 純粋にホラーと言えるのは「夢の島クルーズ」、「漂流船」である。一体何があったのだ? いずれも敢えて多くを語らない手法が効果的。その点が不満でもあるのだが、すべてに説明を求めるのは野暮なのだろう。読者の想像をかき立ててこそのホラーだ。

 「ウォーター・カラー」だけはよくわからないが…「観て」みたい気がするな。

 「浮遊する水」の他にもネタになりそうな作品があるだけに、『仄暗い水の底から2』がいつ企画されるんだか…と思ってしまう僕はつくづく天邪鬼である。ところで、鈴木光司さんはもうホラーはお書きにならないのだろうか?



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