鈴木光司 17


枝の折れた小さな樹


2002/02/24

 本作は、7編を収録した短編集である。各編それぞれ、父親にスポットを当てている。家族や子育てに関するエッセイを積極的に発表している鈴木光司さんだけに、世の父親への応援歌のつもりなのだろうか?

 日本のお父さんは今やすっかり弱い立場に置かれている。毎日通勤電車に揺られていると、見渡す限りの疲れた顔、顔、顔である。会社で叩かれ、家でも叩かれているのかなあ、いずれ自分もああなるのかなあ、などと想像してはため息が出る。

 「大山」における父は、バブルに踊らされた挙句にすべてを失った。「結婚指輪」における父は、夢よりも税理士という安定した職を選んだ。「枝の折れた小さな樹」における父は、愛する娘を失い、廃人のようになっていく妻を前に何もできなかった。「一輪車」における父は、仕事の忙しさにかまけて家族を省みなかった。

 「目覚めれば目の前は海」と「サイレントリー」における父は妻に先立たれ、男手一つで娘を育てている。中には「人生相談」に登場するような悪い父もいる。

 「人生相談」を除き、これらの父たちは家族の再生のきっかけを模索する。あるいは家族の協力を得て立ち直りのきっかけを掴む。まあ、いい話ですよ。いい話だがそれだけだ。で、何? と読み終えて思ってしまった。

 世の父親の参考になるのかはわからないが、正直なところ独身の僕が読んでも説教臭さが鼻につく。そりゃ本人の心がけもあるんだろうが、誰だってきっかけを探しているだろう。見つからないから悩んでいるんだ。

 お父さん頑張れ、と言っている裏に、俺は世の親父とは違うんだという主張を読み取ってしまう僕はへそ曲がりなんだろうか? このご時世だ、僕は世のお父さんを暖かく見守ってあげたい気がするんですがね。



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