高村 薫 01


黄金を抱いて翔べ


2001/07/29

 第3回日本推理サスペンス大賞受賞作となった、高村薫さんのデビュー作である。文庫版裏表紙の紹介文によれば、「圧倒的な迫力と正確無比なディテイルで絶賛を浴びた」そうだが…。 

 一言で言ってしまえば、6人の男たちが銀行本店の地下に眠る金塊を強奪するという物語である。ただし、計画決行に至るまでが長い。北川が幸田に計画を持ちかけたのが8月末。準備に準備を重ね、12月16日にようやく決行となる。

 なるほど、ディテイルは正確無比だ。ラストの強奪シーンにおける臨場感は見事に尽きる。だが、そこに至るまでのディテイルを堪能できるか、それとも不必要に細かいと感じるか、意見が割れるのではないだろうか。爆弾の取り扱いといい、地下ケーブルを敷設した共同溝や変電所の偵察といい、手抜きなしなのは結構だが、専門的すぎる。

 映像化されればまた見方は違ってくると思う。そのままシナリオとして使えるほど、描写は詳細なのだから。せめて、現場の見取り図でもあればもっと入り込めたかもしれない。舞台となる大阪に土地鑑がないせいもあるだろう。

 一方、途方もない計画のために集結した6人の男たち。いずれも何やら訳ありな顔ぶれだ。準備を進める過程で、彼らの利害関係や過去が徐々に浮かび上がる。それぞれの事情が人物像に厚みを増す、と解説には書かれているが、厚みを増す前にぼかされたまま終わってしまったというのが正直なところ。

 陰があり、同時に魅力的に映る男たち。だからこそ、その背景をもっと読ませてほしかった。福井晴敏さんの『Twelve Y.O.』と同じ不満が残る。どちらも面白かったが、緻密さと煮え切らなさが同居しているように思う。

 これ以上何を望むのかという高村ファンの声が聞こえてきそうだが、凄い作家だと確信しているから、面白い作品だと思うから、僕は敢えてケチをつける。



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