福井晴敏 01 | ||
Twelve Y.O. |
本作は、第44回江戸川乱歩賞受賞作となった、福井晴敏さんのデビュー作である。2作目となる『亡国のイージス』で一気にブレイクした福井さんだが、本作の文庫化を機に読んでみることにした。
最強のコンピュータウイルス「アポトーシスII」と謎の兵器「ウルマ」を駆使するテロリスト、「12(トゥエルブ)」。その脅迫に屈し、米国防総省は沖縄から海兵隊を撤退させる。「12」の正体は? そして真の目的は?
何ともはや、スケールの大きい作品である。《キメラ》計画といい、『GUSOHの門』といい、驚くやら呆れるやら。僕は乱歩賞受賞作品を数えるほどしか読んでいないが、おそらく歴代の乱歩賞受賞作品の中でもかなり毛色の異なる作品ではないだろうか。
うーん、面白いには面白いんだけど…正直なところ、乱歩賞の規定枚数に収めた軋みが散見される。展開も唐突だが、何よりも登場人物たちの背景がわかりにくく、顔も見えないのが気になった。同じ自衛隊という組織を題材にした作品でも、血が通った古処誠二さんの作品―『UNKNOWN』、『未完成』とはまったくの対極にある。
希望がない作品はだめ、とは言わないが…ここまで日本という国を絶望視する人間ばかりが登場すると、ちょっとげんなりしてしまう。特殊な職務に就いている故のこととは思うのだが、だからこそ背景をわかり易くしてほしかった。これが規定枚数内の限界なのだとしたら、もったいないなあ。
本作で乱歩賞を受賞した前年、福井さんは『川の深さは』で最終候補に残っている。文庫版解説によれば、当時選考委員の一人だった大沢在昌さんは『川の深さは』を強く推し、選考会は大激論になったそうである。どうやら、本作のストーリー展開は『川の深さは』を踏まえているらしい。
かなり批判的になってしまったが、読んだ甲斐はあったし、読ませる力があることは確か。大沢在昌さんならずとも注目したくなる作家である。